橋本裕の日記
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元旦の夜、二人の娘が自らのねぐらに帰って行った。看護婦の長女は12月30日から1月2日まで休みがないという。元旦の日も夜勤があけて家に来たのは10時過ぎだった。「2日は朝7時半までに病院い入らなくちゃ」と言って、元旦の夜にいそいそと帰って行った。
去年までは正月の勤務には特別手当がついたが、今年からこれも廃止されたようだ。長女は県立病院に勤めているので私と同じ公務員だが、私より少ない給料で、どうみても私の4〜5倍は働いている。すこしかわいそうな気がしたが、若いから勤まるのだろう。本人は「疲れた、疲れた」と言いながら、仕事にやりがいを感じていて、意外と楽しそうだ。
次女は2日は馬術部の初練習があるという。そのあと歴代の監督やコーチ、OBも交えて「慰安会」をするらしい。次女は3年生のときは部長をしていたが、4年生になって役がなくなり楽になった。後輩の部員から「慰安会の会費忘れないでください」とメールが入ったと言って苦笑していた。次女も元旦の夜に、大学の寮に帰った。
というわけで、昨日は一日中、妻とふたりきりになった。二人して食べてばかりいるとまた太りそうである。少しお天気が心配だったが、岐阜にある金華山に登ることにした。自宅を出て、車で30分も走れば山のふもとに着く。近くに手ごろな山があるのでたすかる。
途中で山雀(ヤマガラ)にピーナツなつをやりながら、片道1時間ほどかけてお城のある山頂にのぼった。ダイエットで体重を落とし、毎朝散歩もしているので、このくらいの山登りはそれほど苦ではない。少し汗ばんだ肌に、山頂の寒風がちょうど快い。そこにたくさんの小鳥があつまっていた。
手のひらにピーナツをのせると、次々とヤマガラがやってきて、小首をかしげてピーナツをくわえ、それから飛び立っていく。その様子がなんとも可愛い。金華山のヤマガラは人を恐れない。手のひらにピーナツがなくなると、近くの枝先に止まって、催促顔で私たちを見ている。
雀もたくさんいたが、人間を警戒して、私たちの手のひらに止まったりしない。それでもピーナツを投げてやると、あらそって食べる。他に頬の白いシジュウカラがいた。このシジュウカラが一度だけ、妻の手のひらからピーナツをとって行った。金華山の山頂へ何度もきているが、これは初めてのことだ。よほど腹が減っていたのかも知れない。この小鳥にとっては、勇気を要する大決心だったことだろう。
山を下る途中で、2匹のリスに出会った。ピーナツを投げてやったが、振り向きもせず逃げて行った。リスも以前はもっとたくさんいて人懐っこかったが、最近は数も少なくなり、人間を警戒するようになったようだ。少し淋しかった。
「山が痛むので、決められたコースを歩いてください」とあちこちに標識が出ている。その標識の横を、近道をして登っていく3人の高校生らしい男子がいた。木の根、草の根が無残に踏みつけられていく。妻が大きな声を出した。
「山が荒れるって書いてあるでしょう。あなたたち、日本語が読めないの」
それでも3人は悪びれずに近道をする。「あんまりいうと、刺されるかもしれないわね」と妻もあきらめ顔だ。無法者を見て、何も声を出さなかった私は、すこし反省した。「山にはたくさんの生き物が棲んでいるのだよ。山は君たちだけのものじゃないんだからね」と、本当はこんな風に声をかけてやりたかった。
帰り道でもヤマガラが餌を求めてやってきた。近くの枝に止まって、「ジージー」と鳴いて催促し、手のひらからピーナツをとると、「ありがとう」という風に「ちっ、ちっ、ちっ」と鳴き声を変えて飛んでいく。私たちはまた少し心がほがらかになった。
(今日の一首)
てのひらのピーナツくわえたヤマガラは われをみつめてかわいげに鳴く
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