橋本裕の日記
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2006年12月31日(日) トビの羽

 妻が川原のトビに餌をやりだしたのは数年前からだが、その頃からやってきたトビが今年の春頃から姿を見せなくなった。そのトビは高齢のせいか羽が透けていて、飛び方もぎこちない。

 そして餌を求めてやってきても、カラスたちに遠慮するのか、なかなか降りてこない。時には上空でカラスに襲われて、逃げ回っていた。羽が薄くなったのもカラスに襲われたせいかもしれない。カラスにいじめられるトビを見ていると可哀想で、おもわず「トビよ、がんばれ」と応援したくなる。

 この哀れなトビのために、妻はスーパーでかしわの皮を買い求め、とくに餌の少ない冬の間は毎日のように餌をやりにきていた。妻が行けないときは、私が代わりに餌をやったこともある。

 餌の大半はカラスともう一匹の若いトビに奪われるのだが、それでも一つくらいはこの羽の抜け落ちたトビの手に入る。それを見届けて、私たちはすこしほっとして川原を去るわけだ。

 このトビは近くの鉄塔に止まっていることが多かった。そこから私たちの様子を窺っていて、餌が投げられ始めるとやってくるわけだ。だから、散歩の途中、鉄塔の傍らを通りながら、私たちもそのトビの姿を確認する。

 今年の春先のある日、妻がその鉄塔の近くの散歩道を歩いていると、そのトビのものと思われる羽がひとつ落ちていた。そしてその日を境に、鉄塔にも川原にも、そのトビの姿がなくなった。

「死んだのかしら。それともどこかへ行ったのかしら」
「羽がずいぶん薄くなっていたからね。どこかへ行ったにしても、長くは生きれないだろうにね」

 私は妻が拾ってきた羽を手に取りながら、そのトビがお礼に羽を一枚残していったのかも知れないと思った。おそらく「形見分け」のつもりかもしれない。そのトビの羽は、こうしてわが家の大切な家宝になった。

 そのトビがいなくなって、今、川原には若いトビが二羽、カラスどもに混じって餌を食べている。時には他のトビもつがいでやってくる。彼らは若々しく、立派な羽を持っている。ときには若いカラスがちょっかいをかけるが、トビは相手にせず、鷹揚と空を舞う。その姿は美しい。

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今日は大晦日。今年最後の日記になった。早いものである。
それではみなさん、よいお年を!


橋本裕 |MAILHomePage

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