橋本裕の日記
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2006年12月20日(水) 愛国心のトリック

 高校3年生の時、国語の先生の家に遊びに行き、その蔵書の多いのに驚いた。「何か面白い本を推薦して下さい」というと、先生が「これはすごい本だよ。読んでごらん」と一冊の文庫本を貸してくれた。坂口安吾の「堕落論」だった。

 たしかにこれは面白かった。痛快だった。これを読むと、世の中の「からくり」がとてもよくわかった。そして「からくりを知る」ことの大切さもよくわかった。坂口安吾は「国民よ、目を覚ませ。もっと賢くなれ」と訴えかけている。このことが、高校生の私にもよくわかった。

 先生の自宅にはその後も何度かお邪魔したが、そのうちその先生(渡辺先生)が坂口安吾のように思えてきた。葡萄酒を片手にふらりと出かけていって、先生といろいろ議論することが私の楽しみになった。こんなことを思い出したのは、中日新聞に連載中の「続堕落論」をたまたま昨日読んだからである。

<その天皇の号令とは天皇自身の意志ではなく、実は彼等の号令であり、彼等は自分の欲するところを天皇の名に於いて行い、自分が先ずまっさきにその号令に服してみせる。自分が天皇に服する範を人民に押しつけることによって、自分の号令をおしつけるのである。

 自分自らを神と称し、絶対の尊厳を人民に要求することは不可能だ。だが、自分が天皇にぬかづくことによって天皇を神たらしめ、それを人民に押しつけることは可能なのである。そこで彼等は天皇の擁立を自分勝手にやりながら、天皇の前にぬかづき、自らがぬかづくことによって天皇の尊厳を人に強要し、その尊厳を利用して号令していた。(略)

 藤原氏の昔から、最も天皇を冒涜する者が最も天皇を崇拝していた。彼等は真に骨の髄から盲目的に崇拝し、同時に天皇をもてあそび、我が身の便利の道具とし、冒涜の限りをつくしていた。現代に至るまで、そして現在も尚、代議士諸公は天皇の尊厳を云々し、国民は又概ねそれを支援している>

 今日喧伝されている「愛国心」もこのたぐいではないかと、私はうたがっている。民主主義国家を標榜している以上、「天皇」の威厳を借りることはできない。そこでこれに代わるものとして「愛国」という便利なものを持ち出してきたのだろう。

 そして人々はかって天皇にぬかづいたように「国旗」にぬかづきはじめた。もっとも愛国心のない者が愛国心を叫び、これを国民に強要し、これの権威や威厳を利用して、国民を都合よく支配しようとするわけである。この「からくり」にいまだに多くの人々は騙され続けている。

(参考文献)

−−−−−中国新聞ニュース'06/12/17−−−−

 【ワシントン16日共同=太田昌克】日本で軍部ファシズムの台頭につながった一九三五年の「天皇機関説事件」をめぐり、文部省思想局(当時、以下同)が憲法学者ら十九人を「速急の処置が必要」など三段階に分類、機関説の修正に応じない場合は講義を担当させないなどの報復措置を警告し、学説の変更を強要していたことが十六日、分かった。思想局の秘密文書が米議会図書館に保管されていた。

 事件から七十年余。政府が学者を個別に攻撃、転向を迫る徹底した思想統制の過程が個人名や具体例とともに判明した。複数の専門家は、文部省による具体的な圧力の実態を記した文書が確認されたのは初めてだとしている。

 文書は、米国が終戦直後に日本で接収した「各大学における憲法学説調査に関する文書」で、計約四百五十ページ。

 それによると、思想局は天皇機関説排撃の気運が三五年前半に高まったことを受けて憲法学説を本格調査。機関説を支持する度合いに応じ、十九人の学者を「速急の処置が必要」「厳重な注意が必要」「注意を与えることが必要」の三段階に分類した。

 その上で著書の改訂や絶版を求め、従わない場合は(1)著書発禁や憲法講義の担当解任(2)講義休講−などの報復措置を取ることを決定した。

 (1)には機関説事件に絡んで貴族院議員を辞職する美濃部達吉・東京帝大名誉教授の弟子、宮沢俊義・同大教授らが(2)には佐々木惣一・立命館大教授らが該当。対象となった学者は講義内容を変更、著書三十冊以上が絶版に追い込まれた。

 文書によると、一部の学者は「拙著憲法原論は根本的に修正しつつ講義を進めている」などとした上申書を提出した。

 美濃部氏が唱えた天皇機関説は「国の統治権の主体は国家にあり、天皇は国家を代表する機関」とする学説。当初は政府も容認していたが、三五年二月に一部議員が議会で攻撃。右翼団体が排撃運動を進めた。美濃部氏が十九人の中に入っていないのは、既に著書発禁などの処分対象になっていたためとみられる。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200612170143.html

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