橋本裕の日記
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2006年12月08日(金) 「起承転結」の説得術

 説得術の本をよむと、相手を説得するのには、「yes」から始めよと書いてある。頭ごなしに「no」を言うと、相手は反発する。これでは相手を説得もできないし、納得させることもできない。

 子どもを頭ごなしに叱りつける親や教師がいるが、これもきわめてまずいやりかたである。子どもが何か間違いをしたり、おかしな発言をしても、まずはその言い分を聞いてみる。そして、「そうだったのか」「そう言うのも無理はないね」と相手の立場に身を置いてみる。

 そうすることで、相手は相手が警戒心を緩め、心を少しだけひらく。そうした準備が整ったとき、こちらの意見を述べる。この「yes〜but〜」が説得術の基本だという。

 さらにある本を読んでいたら、猜疑心の豊かな現代っ子には「yes,but」でも十分ではないという。なぜなら、「yes」とくると、次に「but」と続くことを予見して身構えてしまうからだという。だからむしろ、「yes、yes、but」がよいという。

 これを読んで私は、教育的には「yes、yes、but、yes」がよいのではないかと考えた。最初の「yes」は受容の「yes」である。さらにこれを受けて、この受容がおざなりのものではなく、私がどれほど親身になって理解をしているかを示すのが次の「yes」である。

 こうして相手をよく理解していることを納得させたうえで、それと違った意見を提出する。それが「but」である。しかし、ここで終わらず、もう一度相手の立場に立って、この対立意見を吟味し、受容しやすいように配慮する。そして相手も肯定した上で、最終的な解決へと相手を導くのである。

 これは弁証法であり、まさに「起承転結」の構造をしている。説得術もここまで磨きがかれば本物だろう。こうはなかなかうまく運ばないが、最後にひとつ、橋本流説得術のささやかな実践例を示しておこう。

 A君は夜間高校で私が担任している生徒である。遅刻の常習者で、今日も又遅刻をしてきた。このままでは欠課オーバーで進級できない。遅刻をしないように説得する必要がある。

私「今日も遅刻したね。どうしたの」

A「仕事がいそがしいんだよ。しかたがないんだ」

私「たしか、スーパーのアルバイトだったね。午後の2時まで働いているんだよね」

A「そうだよ、朝が早いんだ。2時まで働くとくたくたでさあ。それから家に帰って、一休みするんだ。そうしないと、学校で居眠りばかりすることになりからね」

私「それはたいへんだな」

A「それに2時に帰れないときもあるからね。最近は残業までたのまれるんだ」

私「そうか。ななかな厳しいな」

A「他にいい仕事もないし、当分ここで働くしかないんだ。何とか学校に間に合うように家に出ようとするんだけど、ほんとうに体がきつくてさ。たいへんだよ」

私「何か楽しいことはないの。気分晴らしをしないとたいへんだろう」

A「学校から帰り道に友達とあって、カラオケに行ったりするね。毎日じゃないけど」

私「まあ、息抜きも必要だものな。たしかに働きながら勉強するって大変なことだからね。君はよくやっているよ」

A「そうかな」

私「そうだよ。これで進級できたら、もっとすばらしいんだがね」

A「進級できそうもないや」

私「そうとも限らないぞ。君ならなんとか乗り越えられるんじゃないかな」

A「そうかな」

私「夜の時間の使い方をもう少し考えてみないか。何時頃、帰宅するんだ」

A「1時近くだよ。それから風呂につかったしているから寝るのは2時過ぎだな」

私「それでは、だれでも寝不足になるな。そのあたりを、すこし変えられるといいね」

A「そうだな。その辺を少し変えてみようかな」

私「うん、君ならできると思うよ。もう、一踏ん張り、がんばってみないか」

A「わかったよ。なるべく遅刻しないようにするよ」


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