橋本裕の日記
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2006年11月26日(日) 慎みを忘れた社会

 アメリカは世界を民主化すると主張していたが、アメリカのいう民主主義がどのようなものか、この10年間のアメリカの様子を眺めれば実態がよくわかる。96年、上下院で過半数を獲得した共和党は通信法を改正した。そしてしばらくすると、全米の6割以上のラジオ局がクリア・チャンネルという会社に買い占められた。

 この会社はテキサスに本社があって、ブッシュに莫大な献金をしているそうだ。やがて暴力的で口汚い言葉がラジオから流れ出し、アメリカ社会にあふれるようになった。

「フェミニズムのせいでブス女がのさばっていいる」
「人口の12パーセントしかいない黒人のことなんか無視しろ」
「マスコミは左翼で人権派に迎合している」
「戦争に反対する売国奴はカナダに追放しろ」 
「移民はマシンガンで撃ち殺せ」

 これまでもこうした差別的で暴力的な考えを持っていた人はかなりいた。しかしそうした人々も、その本音をかくしていた。なぜなら、それはほんらい恥じるべきもので、こうした罵詈雑言は社会的に容認されるものではないと思っていたからだ。

 ところがこういう言葉がラジオから流れ、政治家や大学教授までが公然と口にするようになると、もはやだれも遠慮しなくなった。それどころかこういう「本音」を口にする方が、クールでかっこいいように思われ出したのだ。そしてこうした差別的な発言をする勇ましいキャスターが人気を独占し始めた。

 ほぼ時をおなじくして、テレビでも同様の動きがはじまった。「リベラルに偏向したテレビの是正」をモットーとするFOXニューズ・チャンネルが立ち上がったのだ。社長はレーガン大統領のメディア参謀だったロジャー・アイルズ、会長は世界のメディア王・マードックである。

 FOXは9.11以降、その勇ましい好戦的主張で視聴率をのばし、CNNをも蹴散らして、たちまちニュース局の王座についた。女性蔑視、人種差別、反福祉、反エコロジーのアジテーションがアメリカ社会に氾濫し始め、そして人々はアフガン戦争、イラク戦争を賛美する方向へと誘導されていった。

 しかし、その結果は惨憺たるものだった。イラクではこの3年間で9.11の犠牲者を上回る3000人もの米軍兵士が戦死した。そして厖大な戦費が費やされ、国庫の赤字が膨らんだ。しかも、気がついてみると愛国法までできて、市民は監視カメラや盗聴によってプライバシーを守ることもできなくなっている。

 何よりも個人の自由を尊ぶ伝統を持っていたアメリカ社会が、いまや大きく変質してしまった。最近、アメリカ市民はようやくこの愚かさに気付いた。そして80パーセントを越えたブッシュへの支持は30パーセントに落ち込み、11/7の中間選挙では共和党は大敗した。アメリカは今ようやく正気をとりもどしかけている。

 これにひきかえ、日本はどうか。靖国参拝にこだわった小泉首相のあとを、教育基本法を改正し、憲法をかえようという安倍首相が引き継ぎ、世論の高い支持を集めている。

 そしていまや日本でも、さまざまな差別的な言語がマスメディアを通して平然と流されている。あたかも皆で渡れば怖くないといわんばかりだ。社会が荒廃し、ますます暴力的で息苦しいものになっていきそうだ。この先日本が正気を取りもどすことができるのか、いささか心配だ。

(参考文献)「週刊現代12/2号」 


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