橋本裕の日記
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2006年11月25日(土) 政治家と言葉

 「歴代首相の言語力を診断する」などの著書のあるユタ大学教授の東照二さんによると、小泉首相の国会での答弁は、これまで歴代首相と大きく違っているそうだ。それは明快で直線的な「します」という表現が多用されたことだという。これまでこうした言葉を使った首相はほとんどいなかった。ところが小泉首相は所信表明演説でこれを頻発した。

 彼の場合「します」の使用頻度は20パーセントをこえていた。ちなみにその前任者の森首相は2パーセントにも満たない。他の首相もほとんどこのレベルである。東照二さんは小泉首相のこうした言語の明快さが国民に斬新に感じられ、人気が急上昇する背景になったと、23日に放送されたNHK「論点」で分析している。

<「します」は、何を実行するかを単刀直入、明快にそして力強く示す言葉です。とかく政治家の言葉はまわりくどい、あいまいであると言われるわけですが、このしますはストレートにわかりやすく自分の意志を表明する言葉だといえるでしょう>

 それでは戦時中の東条首相をはじめ歴代の首相が愛用してきた文末表現はなにかというと、それは「であります」だという。ところが小泉首相の場合、これをほとんど使わない。

 就任直後の国会答弁で、小泉首相と安倍首相がどのような文末表現を使っているかを比較してみると、安倍首相のトップが「あります」で、21パーセント、「ございます」が15パーセントもあったのに対し、小泉首相はの語尾表現のトップは「だと思います」でダントツの28パーセントだという。

 語尾を「だと思います」でしめくくった首相も前代未聞である。さらに小泉首相は「ではないでしょうか」という疑問形を15パーセントも使っている。これはきわめて稀なことだ。東さんは番組でこう述べていた。

<小泉政権はどうして5年半も続いたのでしょう。その理由の一つは、これまでのあまりにも情報中心の、それも言語明瞭意味不明といった、わかりにくい情報中心の話し方から、情報だけでなく情緒もともに交えたダイナミックで魅力的な話し方にあったと言えるでしょう>

<官僚や側近が用意した情報中心の言葉だけではなく、話してと聞き手の心理的距離感を縮めるような話し方、つまり話しての顔を見えるような情緒中心の言葉も織り交ぜて、スイッチしながら、交互につかう。このことによって国民を強く惹きつけリーダーシップを発揮する、このことがこれからの政治家に必要なのではないでしょうか>

 小泉首相の衣鉢を継ぎ、所信表明演説では師匠をこえる異常な頻度で「します」を多用し、さっそうと威勢の良いところを見せた安倍首相だが、その後の国会答弁では「あります」「ございます」を多用している。政治家が自分の言葉で語るのはなかなか難しいことのようだ。


橋本裕 |MAILHomePage

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