橋本裕の日記
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経済学で有名な法則に「パレートの法則」がある。簡単に言えば、「2割が8割を制する」ということだ。たとえば、社会の富の8割が2割の人に集中する傾向がある。自由競争のアメリカはそうなっているし、日本もやがて社会的規制がなくなれば、こうした格差社会に突入することになる。
パレートの法則は、いたるところにあらわれている。たとえば、コンピューターソフトの厚いマニュアル本があるとする。これを隅々まで読むのは大変である。しかし、2割読めば、その機能の8割がわかる。だから、効果的な学習は全てを読むことではなく、重要な2割に的を絞って学習することである。
これは英語の勉強にも言える。1万語を収納した英語辞書があるとする。これをすべて憶えるのはたいへんなことだ。しかし、パレートの法則を知っている人は、基本的な2千語を憶えるだけで、英語表現の8割がカバーできることを知っている。これで労力が1/5になる。
これは「80点主義」である。100点とるには1万語憶えなければならないが、「80点」で満足すれば2千語ですむ。これで労力が8割カットできる。そしてこれをもっと他の有用な学習に当てることができる。
例をあげよう。Aさんは10年間で英語を完璧(100点)にした。しかし、80点主義のBさんは、10年間で英語だけではなく、フランス語、ロシア語、中国語、韓国語をほぼマスター(80点)した。さて100点主義のAさんと80点主義のBさんのどちらの選択が賢いかということである。
パレートの法則は物理学や数学では「べきの法則」と呼ばれて、いろいろな分野につかわれている。たとえば資産の分布曲線を見てみると、真ん中が膨らんだ「正規分布」ではなく、y=1/xのような双曲線もしくはこれに似た形をしている。つまり、わずかな人数(x)が大きな資産(y)を所有し、多くの人間(おおきなxの値)において資産値(y)が極端に小さくなっている。
数学や物理学ではこうした分布曲線 y=(1/xのn乗) を「べき分布」と呼んでいる。そして数学的にいうと、この「べき分布」の場合に、「2割が8割を制する」というパレートの法則が成立するわけだ。
こうした学問的なことは知らなくても、世の中には「正規分布」で理解できないことが多くあり、とくに学習面においては「80点主義」が能率の良いことを知っておくと便利である。
じつは、世の中の多くの現象が「べき分布」に従っており、したがって「パレートの法則」が有効であるのに対して、ちょっと特殊なのが日本の「学校教育」だ。ここでは「100点主義」の発想が支配している。
まず、教科書が100点主義の立場で書かれている。「2割が8割を制する」という自然な構成になっていない。つまり、100点取るために100時間勉強しなければならないとすると、80点取るには80時間勉強しなければならないような「人工的」な構成になっている。教師もそのような試験問題を作る。大学の入試問題もおなじ発想でつくられる。
だから、私たちは学校教育によって「100点主義」の洗礼をうけ、努力と成果が単純に比例するものと錯覚してしまう。そしてどうでもよい枝葉の些末なことまで平等に知ろうとして、たんなる「知識量」を競うことになる。
しかし、世の中に流通している情報はどれもおなじ価値があるわけではない。重要な情報と、些末な情報がある。そして学校で教えられる知識とちがい有益な社会的情報は「べき法則」に従っている。だから重要なものとそうでないものを見抜く力が要求されるのだが、「100点主義」の学校教育は、こうした知力を鈍磨させる。
私たちはこの陥穽を抜け出さなければならない。成果は努力に比例するわけではない。したがって、まずは基本の2割を重視し、これを重点的に学習すること。こうすれば、私たちの人生はたまゆらでも、驚くほど実り豊かなものになるだろう。
(参考サイト) 「べき法則と民主主義」 http://www.can.or.jp/archives/articles/20030315-01/
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