橋本裕の日記
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対東アジア外交でのタカ派強硬発言が突出していた安倍さんが、首相就任後は恒例のアメリカ詣でをさしおいて、10月8、9両日、中国と韓国を訪問し、日中首脳会談、日韓首脳会談を行った。これはブッシュさんに、「米国に来る前に、中国、韓国に行きなさい」とアドバイスされたのかもしれないが、それにしても思い切った決断である。
日中首脳会談が実現した背景を新聞が書いているが、それによると、靖国神社にみんなで参拝する国会議員の会の旗頭をしていた安倍さんが、首相任期中は靖国神社に参拝しないようである。中国首脳部とこうした密約ができているらしい。
歴史認識についても、過去の植民地支配を謝罪する「村山談話」を認めた。以前はこれを厳しく批判していただけに、朝日新聞も毎日新聞も、この「君子豹変」ぶりに驚いている。さらには、中国首脳と太いパイプをもつ創価学会の池田名誉会長とも密会し、首脳会談にむけて便宜をはかってもらったようだ。こうまでして首脳会談を実現し、「対話」に打って出た安倍首相の決断を、ひとまずは評価したい。
安倍首相のこうした「豹変」は、米国首脳や経済界からの圧力以上に、身内の自民党の中からもあったのだろう。小泉さんの退陣が近くなって、マスコミの論調が小泉構造改革や靖国参拝についてたいへんきびしくなってきた。各種の世論調査でも、小沢民主党が選挙で圧勝しそうだという結果がではじめた。
安倍首相の最大の目標は、当面の選挙に勝つということである。懸案であった日中首脳会談を実現し、韓国とも対話が再開できれば、安倍政権への世間の評価は高くなる。これによって長期安定政権も可能になるだろう。安倍首相の保守的な体質が変わったわけではなく、あくまで政権維持のためのびぼう策だとしたら、世論の動向によっていつまた「豹変」するかわからない。マスコミに主導された世論の行方を注視しないわけにはいかない。
そしてまさにその世論の動向を一変させかねない出来事が、首相の外遊中に起こった。10月9日に北朝鮮が核実験をしたという情報が世界を駆けめぐったのである。安倍首相は北朝鮮に対してさっそく強行策を打ち出して、「闘う指導者」というイメージを国民にアピールしはじめた。首相のブレーンの一人といわれる中西輝政京都大学教授も、さっそく週刊文春10/19号に、「日本はアメリカの核で武装せよ」と書いている。
<中国は決して日本独自の核武装を許さない。どんな手を使っても潰してきます。そもそも日本が独自で核開発をすることは、米国の核の傘の下から離れることを意味します。
丸腰になった日本が独自で核武装をするまでの十年間、中国が黙って見ているわけもなく、その前に先制攻撃してくるのは確実です。ですから日本が独自に核を持つという選択肢は現実にはあり得ないのです。
ではどうするか。日本が北朝鮮の核を抑制する唯一の方法、それは米国の核を在日米軍に配備することです。日本の国内の在日米軍の基地に、北朝鮮に向けてミサイルを目に見える形に配備して、初めて核は抑止力をもつのです>
中西教授は日本の非核三原則のなかの「核を持ち込ませない」というのは撤廃し、進んで米国の核ミサイルを国内の米軍基地に配備すべし、しかもその照準を北朝鮮にはっきりわかるように向けるべきだという。しかし、これで戦争が抑止策されるとは限らない。むしろ、よけいに北朝鮮を挑発して、暴走へと導くことになるのではないか。
日本を滅ぼすには、何も核弾頭ミサイルなど必要ではない。戦闘機で原力発電施設を爆破すればすむことだからだ。北朝鮮の戦闘機はアメリカまでは飛んでいけないが、日本なら数十分でやってくる。北朝鮮がその気になれば、1時間後に日本はこの地上からなくなってしまう。また、米・国防情報局(DIA)や韓国・国家安全企画部(KCIA)の報告書によれば、北朝鮮には10カ所の化学兵器工場があり、20種類の毒ガスを生産し、約1千トン、4千万人を殺害できる量を備蓄しているらしい。
正規の戦争で勝ち目がないとなれば、北朝鮮はこうしたテロによる先制攻撃を狙ってくるかもしれない。北朝鮮に中途半端に妥協して、こうした危機を放置することは論外だが、中西教授の主張するようなアメリカの核持ち込みといった強硬策で解決できる問題でもない。
やはり日本はこれを機会に本腰を入れて北朝鮮と対話し、この国と平和友好条約を締結する努力をするべきだろう。この為には、中国、韓国、ロシア、米国との連携や対話がまず必要であることはいうまでもない。
安倍首相は「日本は核武装すべき」と発言したことがあるが、首相になってからはこれも引っ込めて、非核三原則を変えないことを明言した。どうかこの姿勢をこれからも堅持してほしい。そして中国や韓国ばかりではなく、北朝鮮に対しても、ねばりづよく「対話」を心がけてほしい。経済制裁などの強硬策もあくまで「対話」へと道を開くためのものであり、対話を封じるものであってはいけない。
また北朝鮮による日本人拉致の問題も、平和条約が結ばれ、お互いの人や情報の交換が自由化されれば、大いに進展するに違いない。被害家族の方々が強硬手段による制裁措置を求める気持は痛いほどわかる。しかし、真の解決は北朝鮮に改革解放施策を促して、これを多国間で援助することで、「平和友好」を実現するしかないように思われる。
北朝鮮問題は、東アジア問題の急所である。日本が中国やロシア、韓国と対立していては、進展は望めない。アメリカの基本戦略は日本を自らの側において、中国やロシアに対抗させるというものだが、日本がこれに一方的に追随していては北朝鮮問題は解決されないし、ますます深刻化するだろう。
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