橋本裕の日記
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2006年09月27日(水) 大切な柔軟性

 何らかの原因で脳に障害が生じて機能不全に陥ったり、心理的な要因で自己愛が著しく傷ついた人間は、やがて自己をまとめることができなくなる。これがコフートのいう自己崩壊だ。自己崩壊が始まると、自己憤怒が生じ、過度な攻撃性があらわれる。

 さらに自己崩壊が進むと、現実に矛盾した空想や妄想が現れる。こうなるともはや精神病の領域に入ったといわなければならない。まぎれもなく精神分裂症や躁鬱症の兆候である。

 柔軟で健康な自己(脳)をもつ人は、現実を客観的に把握することができる。しかし、自己の柔軟性が失われると、自分の欲望や願望にあわせて都合の良いように現実を解釈するようになる。

 歪んだ主観的自己にあわせて現実の方を空想しても、現実は変わらないから、ここにさまざまな人生の上での齟齬がうまれてくる。たいていの人は、ここで自己の誤りに気付き、自己の考えを修正する。しかし、脳が機能不全に落ちいっていたり、自己愛パーソナリティに障害のある頭の固い人はこれができない。

 自己と現実のと矛盾は修正されず、ますます拡大する。しかし、それでも自己は現実から背を向け続けていると、いよいよ本格的な自己崩壊がはじまるわけだ。

 自己の願望にあわせて現実を空想し、空想を現実と思い込む。本人は正しいと思っていても、他人から見ればまさに妄想としか考えられない。しかし彼は妄想の中に逃げ込むことで、ようやく自己をささえている。だからこの段階まで進むと、妄想だと責めてもかえって事態はわるくなるだけだ。

 しかし、多くの人は、こうした深刻な狂気の段階にはいたらないだろう。その手前でなんとか自己を修復し、現実世界に引き返す。そうしないと、この世界で生きていけないからだ。

 ただ、どうしても引き返せない人がいる。人口の1パーセントほどの人が、こうした認知障害や妄想で苦しんでいるのだという。しかし、薬物治療などで、こうした症状もかなり軽減できる。

 何はともあれ、病気は軽いうちに治療するのがよい。自分が怒りっぽくなったり、攻撃的になったら、脳に異常がないか、あるいはコフートのいう自己愛パーソナリティ障害の兆候でないか、少し警戒してみよう。


橋本裕 |MAILHomePage

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