橋本裕の日記
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| 2006年09月20日(水) |
過去に目を閉ざすなかれ |
最近8月15日が太平洋戦争の終戦記念日だと知らない日本人が増えている。それでも、私くらいの世代の人間であれば、まず知らないことはないだろう。しかし、9月18日が何の日かと質問されると、答えられないのではないだろうか。
じつは、75年前の1931年9月18日、中国遼寧省奉天(現在の瀋陽)の柳条湖付近で、日本の国策会社南満州鉄道の線路が爆破された。そしてこれが引き金になって、旧日本軍による侵略(満州事変)がはじまった。いわゆる15年戦争と呼ばれる、日本とアジアの大悲劇がはじまったわけだ。
実は私もある人に教えられるまで、9月18日が柳条湖事件が起こった日だとは気が付かなかった。もし知っていたら、その日の日記の題も内容も違ったものになっていたに違いない。
日本人はこの日を忘れていても、侵略された中国の人たちはどうだろうか。新華社電などによると、瀋陽市など全国100都市以上でサイレンが鳴らされ、主催者側は「国の恥を忘れず、中華を復興させよう」などと強調したという。また、中国では極東軍事裁判を描いた中国映画「東京裁判」がこの日全国一律10元(約148円)の特別料金で上映された。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060918-00000057-jij-int
この日の人民網日本語版によると、瀋陽市柳条湖近くの「九一八歴史博物館」には、開館から7年で日本人約8万人を含む計700万人以上が来館したという。人民網日本語版から一部を引用しよう。
<館内に置かれた来館帳は、何冊もが書き込みでいっぱいになっていた。大連国際楓葉学校初級中学部の花媛さんは6月28日、「わたしは歴史教師として、より多くの中国の青少年にこの歴史を理解させ、記憶させ、日本軍国主義の復活を警戒させることを強く提案する」と書き込んでいる。北海道から来た野村さん、清水さんなど5人の日本人は7月7日、「祈中日友好」と厳かに大書している>
http://j.peopledaily.com.cn/2006/09/18/jp20060918_63128.html
私たち日本人は気楽に「日中友好」を口にするが、15年戦争で一方的に侵略され、2000万人以上の犠牲者をだした中国の人たちにとって、「中日友好」を口にするのはなかなか勇気がいることだろう。このことは立場を逆にして考えてみればよい。現にこの日、こんなことも起こっている。9月19日の朝日コムから引用しよう。
<満州事変のきっかけとなった柳条湖事件の発生から75周年を迎えた18日夜、中国遼寧省瀋陽市の事件現場近くで記念式典が開かれた。式典周辺に集まった市民は1万人以上。警備当局は1000人規模の厳戒態勢を敷いたが、式典後、興奮した市民ら数百人が警察官らともみ合いになり、「日本製品を買うな」「打倒小日本」などと叫びながら、「日の丸」を焼いた。当局が解散を呼びかけ、約1時間後に収束した。負傷者は確認されていない。数人が連行された模様だ。>
http://www.asahi.com/special/050410/TKY200609180258.html
こうした中国の現実を私たち日本人は知るべきだろう。そしてこれは中国だけの現実ではない。韓国やフィイリピンなど、日本の軍国主義的な植民地政策で被害を受けた多くの東南アジアの国々がかかえる現実である。こうした現実は過去に目を閉ざしていては見えてこない。西ドイツの大統領ヴァイツゼッカーの言葉を引用しよう。
<過去に目を閉ざす者は、結局のところ現在にも盲目になる。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした過ちを繰り返す>
東西の冷戦が終わり、世界情勢が大きく変わろうとしている。アジアでは中国が力をつけ、すでにその経済的な影響力は日本をしのいでいるという分析もある。やがてGDPでも日本を凌駕し、アメリカと肩を並べる日がくるだろう。
また、韓国や他の東南アジアの国々も日本に対する経済的な依存度を下げている。これまでは日本もアメリカ依存とODAによる札束外交でどうにかなったが、これからの時代はそうしたことではどうにもならないだろう。
やはり、日本が本当に信頼される国にならないといけない。そのために、戦争責任もしっかり受け止める必要がある。本来なら、こうした問題で紛糾することはないずだが、これを認めることに異常に反発する人たちがいて、問題をこじらせている。
そのために、何度も追求され、何度も謝罪を繰り返すというお粗末な外交を繰り返している。そして足踏みばかりしていて、その先に進むことができない。こうした停滞、あるいは退行は、ほんとうに情けない。
日本が大きな目標にすべきは、国際社会で信頼を得て、責任ある地位を確立することではないだろうか。たとえば、国際連合の安保常任理事国にふたたび立候補して、世界の国々からその地位を承認してもらうことだ。そのためには、まずは近隣諸国の信頼を得なければならない。そしてこれこそが日本国憲法が日本政府と国民に求めていることである。
日本がそうした大きな志をもって努力すれば、日本は世界からの徳のある有為な国家として認められる。これからの日本は、経済力を生かしながら、政治的、文化的にも世界に貢献し、国際社会で信用力を高めていかなければならない。
おくればせながら、柳条湖事件に対する感想を書いてみた。中国の人々は「9.18を忘れるな」という。しかし、本当は私たち日本人こそがこの日にもう一度「9.18を忘れない」と肝に銘じ、アジアと世界に向かって平和のメッセージを発信すべきなのではないだろうか。
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