橋本裕の日記
DiaryINDEXpastwill


2006年09月19日(火) 国民不在のサラ金改正案

 今年1月、最高裁は貸金業者に関する裁判で画期的な判決を下した。利息制限法と出資法で上限利息がくいちがうことで生じていた「グレーゾーン金利帯」そのものを、ついに事実上、認めないと宣言したのだ。

 利息制限法は上限金利を20パーセントまでに制限している。しかし、この法律には罰則規定がない。ところが「5年以下の懲役、もしくは1000万円以下の罰金」という罰則規定のある出資法は上限金利を29.2パーセントと定めている。サラ金業者はこの出資法に基づいて貸し出し金利を決めていた。最高裁はこれを違法としたわけだ。

 しかし、金融庁が今回自民党に提出した貸金規制法改正案は、28パーセントの高金利を特例で認めるとしている。さらに、上限金利も制限法で10万未満が20パーセント、100万円未満が18パーセント、それ以上は15パーセントだった貸出金の区切りを、それぞれ5倍の50万円と500万円にしている。

 しかもこの改正案を施行するまでに1年、猶予期間が3年、そしてさらにその先5年間もこの特例金利を認めるのだという。つまり国民はこれから9年間も、こうした高金利状態に放置されるわけだ。すでに消費者金融で借金がふくらみ、自殺や家庭崩壊がおおきな社会問題になっているのに、この金融庁の悠長さは何としたことだろう。

 これについて、市民団体や法曹界からも批判の声があがっている。そして内閣府でこの問題を担当した後藤田正純政務官(衆議院議員)が、9月8日に「改正案はとても承認できない」として政務官を辞職した。彼は週刊文春9/21号の記事の中でこう述べている。

<僕はグレーゾーン金利撤廃に関して、多重債務や高金利に苦しむ人たちのために、一貫して上限金利の引き下げを主張してきた。ところが金融庁は、引き下げ反対派の政治家や貸金業界に配慮した「特例案」を出してきた。今後は自民党の一議員として、金融庁の案を徹底的に叩くということで辞任した>

 すでに貸金業界は大手の銀行によって系列化が進んでいる。岩崎弥太郎を創業者にもつ日本最強の財閥である三菱グループは、04年3月にアコムに約1000億円を出資して、実態としてこれをグループの傘下においた。また、三井住友グループもプロミスに資本参加し、共同して貸金業務を展開している。

 こうした流れは、金融当局の思惑でもある。批判の多いサラ金業界を、自分たちのコントロールの利く大手の銀行業界に仕切らせて、これを「健全化」しようというわけだ。もちろんこの「健全化」は、霞ヶ関の役人や政治家ばかりではなく、大手の銀行にとっても願ってもないおいしいビジネスチャンスである。すでに米国の銀行はその利益の大半を個人向け金融ローンやカード業務で賄っているが、日本の銀行もこうした方向に動いているわけだ。

 もちろん、外国の銀行も日本の消費者金融市場にそうとう深く関与している。今回の「グレーゾーン金利問題」についても、米金融機関は共同で与謝野馨金融相に「人為的な金利制限は経済にネガティブな影響をもたらす」という趣旨の陳情書を提出している。

 こうした圧力を受けて、与謝野長官の言動も次第に腰砕けになってきた。当初「高金利」に不快感を表していたが、最近は「業者よりの人がいて、これに反対する若い議員がいる。自民党と金融庁で考えた案がちょうど真ん中でよい」などと無責任な発言をしている。(週刊文春9/21による)

 自民党と金融庁の真ん中の案というのは、「特例」の猶予期間を5年から3年に短縮させることらしい。金融庁はこんな小細工で自民党の面子を立てるつもりかも知れないが、双方ともあまりにも国民を甘く見過ぎていはしないか。


橋本裕 |MAILHomePage

My追加