橋本裕の日記
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2006年09月03日(日) サラ金の帝王死す

「サラ金の帝王」という異名をとった武富士前会長の武井靖雄氏が8月10日、76歳で死去した。93年には納税者番付で全国トップになり、06年には米フォーブス誌も日本長者番付ランキング」の第2位にランキングしている。そのときの資産が56億ドル(6500億円)というからたいしたものだ。

 週刊現代9/9号の記事によると、彼は杉並区の1400坪の敷地に550坪もある白亜の豪邸を建てて住んでいたという。大浴場やプール、スポーツジムまで完備した「お城」も、じつは武富士の「研修所」という名目で、彼が家賃を払って住んでいた。会社の保有にしておけば、節税になるし、相続税もまぬがれる。こうした手法は西武鉄道の堤前会長も愛用していたものだ。

 武井氏は埼玉県の生まれで、若いころは「不良グループ」に属し、ヒロポンや博打に狂っていた。東京に出て、闇米の販売をして貯めた金で高利貸しを始めたのだという。会社は順調に伸びて、86年には株式を公開し、東証一部に上場し、02年には経団連に加盟して、ついに財界の名士にまでのぼりつめた。

 彼は巨額の資産を得る中で、一方ではずいぶん厳しい取り立てを社員に強要し、会社は違法行為をエスカレートさせていた。しかもこれを批判した記事を書いたライターの電話まで盗聴させた。このことが明るみに出て、武井は03年に逮捕・起訴されている。暴力団との交際も明るみに出て批判されたが、武富士の会長を退いたあとも、実質的なオーナーとして会社に君臨していた。

 それにしても、サラ金で6500億円も資産を稼ぐというのは驚きである。彼の有能さに驚いているのではない。サラ金の経営者がトップクラスの収入を得て、莫大な財を築くことが可能な日本という社会のあり方に驚いているのだ。武井のこの天文学的な蓄財の陰に、いったいどれほどの人々の悲しみの人生があったことだろう。自殺者の山が築かれ、多くの家族が離散しているに違いない。

 アリストテレスは「政治学」のなかで、「憎まれて当然なのは高利貸しである」と書いている。そもそも貨幣は市場で商品を売買するための手段として生まれた。ところが高利貸しはこれを自分の蓄財のために利用する。お金がお金を生むという仕組みは本来の貨幣の目的ではない。アリストテレスは「これは最も自然に反したものである」と断罪している。

 しかし、現代はまさにアリストテレスが不自然だと断罪した「お金がお金を生む社会」になってしまっている。物の値打ちだけではなく、人の値打ちまでもがお金で測られる。しかし、こうした社会がおかしいと感じる人もいないわけではない。お金は大切だが、他にまだ大切なものがたくさんある。お金に振り回される人生だけは送りたくないものだ。


橋本裕 |MAILHomePage

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