橋本裕の日記
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2006年07月19日(水) 狙われる日本の優良企業

 6月26日、ひとつのニュースが世界を駆けめぐった。世界第一の鋼鉄生産量を誇るミタル・スチール(本社オランダ)が第二位のアルセロール(本社ルクセンブルク)を敵対的買収したというのだ。やがて売上高8兆3千億円の巨大企業が誕生することになる。

 ミタル・スチールはこれまで世界中で20社もの鋼鉄会社を買収して大きくなってきたが、インド人のミタル会長(56)の次の狙いは、アジアではないかと言われている。

 アジアには新日鉄(日本)、ポスコ(韓国)、JFE(日本)といった生産高世界第3位、4位、5位を占める鋼鉄会社がある。しかも、これらの会社の技術力はミタル・スチールをはるかに凌いでいる。

 「週刊現代」7/22号によると、新日鉄やJFEが保有する特許の数は600件を超えるという。これに対し、ミタルはたったの4件にすぎない。こんど買収したアルセロールの22件と合わせても26件である。だから、ミタル社は日本企業の優秀な技術力を狙ってくるだろう。技術開発には手間暇がかかるが、買収に成功すれば、これがまるごと手に入る。

 技術力でははるかに日本企業はミタル社を圧倒しているが、しかしグローバリズム資本主義の論理は違っている。問題は資本金である。ミタル社に買収されたくなければ、日本企業も図体を大きくするしかない。いかに技術力が優れていても、会社の経営がよくても、資金力が最優先される現在のマネー資本主義の世界で生き残るのは難しい。

 新日鉄といった日本を代表する巨大企業でさえ買収の危機にさらされているのだから、他の日本企業も外資の買収攻勢を凌ぐのは容易でない。最近、なぜこんなところにと思うような観光地でもない田舎に、海外からの見学者が殺到している。じつは、その種明かしは、そこに日本企業の工場があるからだという。

 たとえば、特殊鋼で高い技術力をもつ「大同」の工場にも、中国企業から見学者が来ている。そしてその狙いは、ずばり「企業買収」だ。週刊現代7/29の記事から、経済産業省の幹部の言葉を引用しよう。

「航空機や船舶の基幹部分に直結する特殊鋼の世界では、日本の技術力は群を抜いており、世界有数のシェアを持っている製品も珍しくありません。その企業買収に中国が関心を持っているようです。こうした工場が外国企業の掌中に渡り、軍事用の航空機や船舶に転用されたらと考えると、ゾッとします」

「大同」は世界最大級の特殊鋼メーカーで技術競争力は抜群だが、しかしその株価時価総額は約3700億円にすぎない。資金にものをいわせれば、簡単に買収されてしまう。週刊現代の記事から引用しよう。

<国境を越えた大合併の波は、これまで日本人が想像もしなかった危機をもたらそうとしている。日本経済の競争力を支えている最先端企業が、中国の巨大国策ファンドに狙われているのだ。このM&Aを許せば、経済だけではなく、安全保障にとっても重大な脅威になる>

<もしミタル・スチールがアルセロールに仕掛けたような敵対的買収を中国が仕掛けてきたら、日本政府や日本企業は無力に等しい>

 日本はほんの数年前までは、こうした世界企業の敵対的買収を未然に防ぐ仕掛けを二重三重にもっていた。ところがこの数年間の規制緩和でこの防御装置が取り払われている。

 外堀も埋められ、内堀まで埋められて、いまや本丸は丸裸にされているが、日本政府や企業にこの自覚はない。北朝鮮からいつとんでくるか知れないミサイルの恐怖よりも、もっと現実的な脅威が、すでに日本列島をすっぽり覆っていることに気付くべきだろう。


橋本裕 |MAILHomePage

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