橋本裕の日記
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キヨサキさんに限らず、「安い物件を買い、それを高く売る」というのは、お金持ちがお金をもうけるとき、普通に行っていることである。資産構築の基本原理だと言ってもよい。問題はいかに物件を安く買い叩くかだ。
キヨサキさんが目をつけたのは、破産や倒産によって売り出された物件だ。これもキヨサキさんだけではなく、お金持ちがよく使う手である。もっとあくどい金持ちになると、相手を破産させて、財産を巻き上げる。
とくにおいしいのは、国家が保有する資産である。国の経済を破綻させ、苦し紛れに売り出した国有財産を二束三文で買い取り、莫大な利益を手に収める。民営化というグローバリゼーションの潮流の中で国際的に行われている現代の錬金術がこれである。
ホットマネーによるこの戦略によって、1990年代、多くの国の資産が次々と奪われた。タイ、マレーシア、インドネシア、フイリピン、韓国の経済が次々と破綻し、IMF(国際通貨基金)の管理下で、この錬金術が猛威を振るった。
エリティン政権下のロシアも悲惨だった。国営企業が次々と民営化され、国内の経済マフィアや外資の手に落ちた。しかし、プーチン大統領はこれを許さなかった。経済マフィアを刑事訴追し、民営化された企業をふたたび国営化した。アメリカは怒ったが、プーチンはこれによって国の財産を守ったわけだ。今、ロシアの国営企業はエネルギー部門を中心に未曾有の利益を上げ、国家財政を潤している。
民営化の波は日本にも襲いかかってきた。大切な国有資産が、次々と売りに出され、二束三文でお金持ちの手に落ちていった。残念ながら、多くの人があくどいお金持ちたちが何を考えているのか、「財産構築の基本方程式」を理解していない。そして単純に「民営化」を「正義」だと信じている。これがお金持ちたちのプロパガンダだと気付かない。
最近、国会で「グリーンピア南紀」にまつわる問題が二度にわたって和歌山県選出の民主党の議員(大江康弘参議院議員)に取り上げられた。旧年金事業団が120億円を投じて作ったこの保養施設が、昨年、地元の2つの自治体(那智勝浦町、大池町)に、それぞれ8300万円、1億8700万円という破格の値段で払い下げられた。
ところが、那智勝浦町の物件が昨年中に、BOAOという香港に本社がある中国系の企業に1億6千万円で実質的に払い下げられた(10年間は賃貸、その後無償で譲渡)。問題は事業団から自治体に売却されたとき、すでに自治体は外資に売り渡すことを決めていたことだ。しかもその契約が行われたのは、経済産業省の大臣室だったという。
この斡旋をしたのは二階経産相だという。町としては8300万円で買い、1億6千万で売るのだから不満はあるはずはない。しかし、国民の年金を湯水のようにつぎ込んでつくられた施設が、こうして二束三文で外資に売られ、しかも地方自治体や政治家がその仲介をしている。損をしたのは国民なわけだ。内橋克人さんが「節度の経済学の時代」(朝日文庫)のなかで、こう書いている。
<「官僚優越の社会のなかで行政官僚の手のなかに集約されていた権限を、いかに市民の手に奪い返すか」という、これが本来の規制緩和でなければなりません。人びとはいまそれが進んでいるのだ、と錯覚しているわけです。
「官から民へ」というのならば、その民のなかに「市民」が入っていなければならない。ところが、いま叫ばれている「民」とは、巨大多国籍企業、大企業にとっての企業活動自由化のことです。端的に言えば、多国籍の外資系企業、日本経団連に所属している大企業の行動を完全自由化するということです>
折しも日本郵政公社が民営化して発足する4事業会社の社長が決まった。「郵便貯金銀行」社長に三菱商事常任顧問の古川洽次氏(68)、「郵便保険会社」社長に東京海上日動システムズ社長の進藤丈介氏(61)、「郵便事業会社」社長にトヨタ自動車グループのイタリアトヨタ会長の北村憲雄氏(64)、「郵便局会社」社長にイトーヨーカ堂執行役員物流部長の川茂夫氏(59)だという。
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