橋本裕の日記
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国の借金がふえたのは、一口で言えば、政府が高所得者から減税したからだ。そして不足分を、国債を発行して賄った。小泉政権は4年間で290兆円もの国債を発行したが、これは本来ならば、裕福層が収めなければならない税金である。
ところが、今、政府は借金が増えたという理由で、増税をしてこの借金を返そうとしている。これは、高所得者が本来おさめるべき税金を低所得者に肩代わりさせようという、国債を使った巧妙な金持ち減税政策である。
しかも、国債に投資した機関投資家やお金持ちは、このゼロ金利政策のもとで、かなりの利息を手に入れている。これは二重の意味で、裕福層への富の移転だ。彼らは減税によって所得の減少を免れたうえ、その穴埋めに発行された国債を買うことによって、さらにその利息を得るという、二重においしい思いをしている。こうした仕組みについて、ビル・トッテンさんはこう書いている。
<国が借金をしなければならない原因とは、まずは税収の不足である。現に米国でも日本でも、富裕層に対する税金や法人税を減税したことによって減った税収分を借金で賄っているのだ。しかし借金はいつか、利子を付けて返さなければいけない。借りた金額以上を支払うのだから、さらに借金は増えていく。
日本の十八年度の国債費の内訳をみるとそれがはっきり分かる。償還費が十兆円で利払い費が八兆六千億円、そして事務費が千億円となっている。借金の元金そのものが減らないのも当然である。では、借金の利子にあたる利払い費は誰の手に渡っているのかといえば国債を買った人だ。それは一般庶民ではなく、富裕層の個人や銀行や投資会社である。つまり減税という恩恵を受けている富裕層や企業が、政府にお金を貸すことでさらにもうかる仕組みになっている>
もちろん彼らは国債を買っているだけではない。06年版通商白書は「日本は投資立国をめざすべきだ」としている。すでに、去年から日本は対外資産の利潤が生む利益が、貿易収支を上回っている。2005年の貿易収支の黒字が10兆3500億円なのに、所得収支は11 兆 3600億円ほどもある。
これは日本が投資大国になりつつあるということだ。通商白書はこの投資収益率を上げるために、もっと投資効率の良いインドや中国への投資を奨めている。裕福層の税金を下げ、彼らに金融資産をプレゼントし、そのお金が海外に投資され、貿易収支を上回る利潤を稼ぎ出している。
その動かぬ証拠が、1500兆円にもなる厖大な個人金融資産の存在である。これはイギリス、フランス、ドイツのEU主要3ケ国の合計よりも大きい。一方で国債を買うどころか、郵便貯金さえできない貯蓄0世帯が増えてついに25パーセントを超えた。日本はアメリカに迫る超格差社会になろうとしている。
国の赤字が増えた主な理由が金持ち減税のせいだとすれば、これを「国の借金」だとして一般の国民に肩代わりさせるのはまちがっている。むしろ、金持ち優遇の減税政策で、彼らがふところに収めた厖大な個人金融資産から徴収するのが筋である。
前にも書いたように、国の借金は裕福層の個人金融資産をふとらせる。しかし、政府はお金持ちの資産には手をつけようとしない。そうするとどうなるか。ふたたびビル・トッテンさんに語って貰おう。
<国が借金を抱えるとどうなるのかというと、日米政府をみれば分かるように、赤字を理由に一般国民へのさまざまなサービスが削減される。財政赤字だから教育や医療、住宅に向ける予算がないというのが常とう句である>
<国を借金漬けにすることで、一般国民には「自己責任」という名のもとさまざまな福祉を切り捨てながら、国債の発行によって下から上へ富を再配布させてきた小泉構造改革。この四年間で小泉内閣は二百九十兆円もの国債を発行したことを考えると、富の再配布のための改革だともいうことができるのである>
経済政策からしても、借金を返すために一般国民を巻き込んだ増税をしたり、公共投資や福祉を切り捨てる大幅な節税をすることは好ましくない。なぜならこれによって、国民の消費能力が減退し、需要が減り、経済が破綻するからだ。それでは、どうしたらよいのか。ビル・トッテンさんの提案に耳を傾けてみよう。
<国家の借金を減らすための方法はある。まずは、現在富裕層や企業に与えられているさまざまな控除を大幅に減らすことである。そしてそれと同時に、富裕層をさらに富ませるだけで新たな雇用の創出になっていない大企業などへの補助金を削減する意味でも、所得税率、法人税率の累進性を高める。これだけでも大幅な税収の増加になる>
私の考えでは、いま政府に求められている有効な経済政策は次の通りだ。
(1)累進課税の強化、相続税の見直し、選択的な消費税の導入による、企業や裕福層を中心にした大幅な増税。 (2)中、低所得者を対象にした大幅な減税。 (3)国民の教育・福祉改善に向けての大幅な公共投資。 (4)社会保険庁や天下り財団の廃止などによる、無駄な政府支出の大幅な削減。
つまり、(1)と(4)を原資として、(2)(3)によって需要を喚起し、経済の活性化をはかるわけだ。これが国民全体をしあわせにし、日本国をほんとうの意味で豊かにするために残された唯一の道ではないだろうか。
(参考サイト) 「富の再配布のための改革」ビル・トッテン http://www.nnn.co.jp/dainichi/column/tisin/tisin0606.html#22
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