橋本裕の日記
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2006年06月21日(水) |
医療改革にアメリカの影 |
先日、クローズアップ現代でもとりあげられていが、公共医療制度の後退によって、地方では今すさまじい医療崩壊が生じている。公立の病院が医師不足で閉鎖され、都市部と地方の医療格差がひろがってきている。
安くて良質だと言われた日本の医療が、市場原理優先の小泉改革によって、ずいぶん変わってきた。そして、そのしめくくりとして、先日、医療制度改革関連法が参院本会議で可決された。
この法案が成立したことで、現役並みの所得がある70歳以上の高齢者は、10月から医療費の窓口負担が2割から3割に引き上げられる。一般的な所得の人も、2008年度から70から74歳は、窓口負担が原則1割から2割に引き上げられる。
慢性の病気などで療養病床に長期入院している70歳以上の高齢者は、10月から食費や居住費が原則として全額自己負担となる。平均的なケースでは、月額約3万円の負担増となる見通しだという。
ところで、国民一人当たりの医療費出費が世界一高い国はアメリカである。国民一人当たりの年間医療費は59万円をこえる。これだけ高額な医療費を支払っているのだから、さぞかし医療サービスの質がいいのかと思ったが、そうでもない。出産千人当たりの乳幼児死亡率は、6.9人と、日本の3.2人の2倍もある。
WHOの2000年の報告では、アメリカの総合医療評価は世界15位と低迷している。これに対して、一人当たりの医療費が31万円と、アメリカの半分しかない日本の総合評価は堂々世界一だった。
つまり日本は安い医療費で世界一の質の高い医療サービスを国民に提供していたわけだ。その理由ははっきりしている。日本は「国民皆保険」制度の下、公共医療のシステムがしっかり確立していたからだ。こうしてアメリカの半分の医療費で、世界一の長寿を実現していたわけだ。
こうした日本の優良な医療システムをアメリカは見習ってはどうかと思うのだが、事実はあべこべで、日本の方がアメリカから医療改革せよと要求をつきつけられ、日本がアメリカの医療制度を取り入れつつある。事実は小説よりも奇なりとはこのことだ。
アメリカがこうした理不尽な要求をするのは、その背後にアメリカの保険業界の意向があるからだ。つまり、製薬会社や病院ビジネスはもっと自由に日本で金儲けしたいと思っている。そのため、医療分野の公共サービスを廃止して、市場原理でやるべきだというのである。
このアメリカの意を受けて、日本の医療制度改革を推進してきたのが、規制改革・民間開放推進会議の宮内義彦議長(オリックス会長)である。村上ファンドの産みの親でもある市場優先主義者の彼は、かってこんな談話を発表している。
「現在は医療産業が30兆円に押さえられているが、規制改革ができれば、50兆円、70兆円になる」
宮内氏はオリックス生命を傘下に率いている。外圧を使って、外資をもうけさせ、同時に自分も儲けようというわけだ。しかし、医療はたんに産業ではないし、事業家や株主の金儲けの手段であってよいわけはない。アメリカの悲惨な現状を見ればこのことはよくわかる。
アメリカの業界の利益のために国民の命を犠牲にする政治家や官僚は、愛国心が欠如しているといわれても仕方がない。日本の医療制度にもいろいろと問題はあるが、「改革」という言葉に騙されて、これ以上間違った選択をしてはいけない。結局、つらい思いをするのは私たち国民なのだから。
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