橋本裕の日記
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昨日は、国や自治体の経済活動や財政は家計にたとえるのではなく、企業と比較すべきだと述べた。その理由を書けば、家計は「消費活動」が主になるが、国や自治体はさまざまな「生産活動」をしているからだ。
国は公共事業を行い、道路や橋や学校や病院を建設する。それからさまざまなサービスを国民に提供する。そしてその見返りとして国民から税金や手数料を徴収する。その活動は企業とあまり変わらない。だからこそ、「民営化」という発想もでてくるわけだ。
会社の場合は従業員がいる。国や自治体にも従業員がいて、公務員と呼ばれる。国も又企業と同様、公務員に給料を支払い、彼らの家族の生活を養っている。その数は国家公務員が約95万人、地方公務員が約304万人。公社も含めれば500万人を越えるだろう。
企業は株式を発行して資金を市場からあつめる。国もまた国債を発行して、資金をあつめる。そしてこの資金で道路や橋をつくり、公共サービスを作りだして、国民に提供するわけだ。その発行残高は国と地方をあわせると、770兆円である。
株価時価総額でみると、トヨタは約22兆4000億円、米エクソンモービルは46兆円である。これに比較して、538兆円という国債残高は余りに巨大だが、問題はこれだけの資金を調達して行われている活動が、十分に生産的で、国民の利益になっているかである。
これに対しては厳しい評価も可能かもしれない。現に非効率であるとして、これを縮小しようという「民営化」の流れができつつある。基本的に私はこれに賛成なのだが、これはあくまでも国民の利益を重視して行われなければならない。現在の民営化にはこの視点が稀薄で、このままでは公共サービスの大幅な低下をまねき、ひいては国民経済にも悪影響を及ぼしかねない。
問題の根本は、国債を家計でいう「借金」と見なすことである。そして国民も政府も「借金は悪だ」という思いこみに支配され、自縄自縛に陥っている。たしかに家計だと借金はないほうがよいが、企業の場合はそうでもない。トヨタでも10兆円の借金をして、積極的に世界的な事業を展開している。
国債を「借金」だと考えると、これを減らすために、どういう方法があるかということになる。だれでも考えるのは倹約して支出を減らすことである。さらに増税をして、収入を増やそうということになる。
しかし、国債を「借金」と考えなければ、ここにもう一つの方法がある。それは支出を減らすのではなく、支出を増やす方法である。倹約ではなく、国債を発行して減税し、さらに消費を活性化させる方法である。そうすると景気がよくなり、必然的に税収が増え、国の収入が増大するわけだ。結果として国債の償却も可能になる。
増税して倹約するというのが、緊縮財政路線である。小泉内閣はこの方針をとったわけだだが、これは日本の常識であって、世界の常識ではない。なぜならこれをすれば景気が後退するからだ。結局税収が減り、いわゆる「借金」も増える。そこでさらに増税することになり、悪循環に陥る。
しかし、日本は700兆をこえる「借金」をかかえているが、個人金融資産も1500兆円ある。この他に企業の資産や、国や自治体が保有する厖大な資産がある。たとえば国は90兆円もの外貨準備をはじめ、総額500兆円もの金融資産を持っている。
政府が建設した公共インフラもまた国民の大切な資産である。これがあるからトヨタなどの民間企業も巨大な利益を出すことができるわけだ。まや日本の優秀な公的教育システムは、企業に多くの優秀な人材を輩出してきた。
これらを度外視して、個人の金融資産だけで見ても、国民は国や自治体に700兆円投資して、その2倍の1500兆円もうけたのである。公共事業にお金を使うと、まず、地主に莫大なお金が行く。建築業界も、そこで働く人も収入を得る。そうしたお金がつもりつもって、1500兆円もの個人金融資産になっているわけだ。
日本は国債を国内で賄っている。アメリカのように2兆ドルもの国債を外国に依存しているわけではない。それどころか、日本は世界一の海外資産をもつ債権者でさえある。これを可能にしたのは、国民が「国債」を買うことで国に巨大な投資をしてきたからである。国債を国民の「借金」とみずに、これを国への投資と考え、国民の「財産」と見る視点はとても大切である。
国民は国債を購入することで、国にお金を貸し、その見返りをいっぱいもらっている。100万円国に投資して、200万円もうかったのだから、文句ばかりも言ってはいられない。しかし、国がまちがった観念にもとづき、間違った選択をしようとしているとき、これを大いに批判するのは私たちの権利であり義務でもある。
郵便貯金や年金を通して間接的に大量の国債を買っている国民は、いわば国の株主である。株主主権がいわれているが、国はもっと国民の利益を重視した政策を実行すべきだろう。また、国民も株主として大いに国の経済活動に注文をつけ、これを監視していく必要がある。
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