橋本裕の日記
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2006年06月08日(木) 「なぜ」という問の由来

 二等辺三角形の底角は等しいということは、だれでも認めるだろう。それは一見して正しいように見える。ほんとうに正しいのか、実際に分度器で測ってみればわかる。しかし、このことは、分度器で測らなくても証明できる。

 まず、頂点と底辺の中点を直線でむすぶ。私たちはこれを中線とよぶ。そうすると、左右に合同な双子の三角形できる。なぜ合同かといえば、三辺が等しいからだ。そして合同な三角形は、対応する角も等しい。つまり、底角が等しい。

 つまり、中線で折り曲げると、二つの三角形はぴたりと重なる。二つの底角も重なるので、この両者は等しくなるわけだ。実際に紙を折り曲げなくても、頭の中でこれを行えばよい。数学者は実際そうしている。

 ふつう、私たちは「なぜ、二等辺三角形の底角は等しいのか」とは問わない。人間の手の指が10本あるように、それはそのようになっていると考える。私たちは経験的事実として、二等辺三角形の底角は等しいことを受け入れる。

 しかし、今から2500年ほど前、ギリシャ人のターレスは「なぜ?」という問を発した。彼がこの問を発した背景を考えてみよう。つまり、「ターレスはなぜ、なぜという問を発したのか」ということだ。

 それは、彼が世界を「説明可能なもの」として捉えたからだ。なぜ、太陽は東から昇り、西に沈むのか。それは地球が自転しているからである。なぜ、突然太陽は光りを失って世界は暗黒になるのか。それは月が太陽をさえぎるからだ。こうしてタレスは日食を予言し、幾何学の定理をいくつか証明した。

 エジプト人は壮麗な神殿を立て、ピラミッドを作った。精巧な土木技術を駆使して大規模な灌漑をおこない、人々から年貢を集め、収穫量の複雑な計算もできた。彼らはまた、幾何学のさまざまな知識を持っていた。

 たとえば、辺の比が3:4:5の三角形は直角三角形であることを知っていた。実際この性質を使って直角を作り、土地の測量や建築をしていた。しかし、彼らはなぜ、特定の比をもつ三角形が直角三角形になるのか、その理由を考えなかった。彼らはそれを「説明可能なこと」だとは思わなかった。

 タレスがこの世界を理屈で「説明可能なもの」と見なしたのは、この世界を「ある仕組みをもつもの」として体系的にとらえたからだ。だから、彼はその「仕組み」を知ろうと考えた。世の中がどのように出来ているのか、自然界や社会の合理的な仕組みを知りたいと思った。

 タレスはギリシャの商人だったという。商人として世界各地を旅すると、土地によって風習も考え方がかわることに気がつく。何がこの変化と多様性をもたらすのか、旅先で経験したさまざまな出来事に、彼の好奇心はかきたてられたことだろう。

(おひまな人は、3:4:5の比をもつ三角形が、なぜ直角三角形になるのか、考えてみてください。これを証明することで、数学の本質が体得できます)


橋本裕 |MAILHomePage

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