橋本裕の日記
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2006年06月06日(火) 水道方式に学ぶ

 私たちの世代は、「水道方式」で算数を学んでいる人が多い。「水道方式」というのは、数学者の遠山啓(とおやまひらく1909〜1979)さんが開発した算数の合理的な教授法で、数の計算も頭ごなしに規則を覚えさせるのではなく、タイルを使ってその「仕組み」を丁寧にわからせる。

 たとえば、小さな正方形のタイルを10個縦に並べた棒状タイルは10、これを10横に並べてできた大きな正方形タイルが100である。これをつかうと、237+364=601などという計算がどういうしくみで可能なのかよくわかる。足し算だけではなく、かけ算や割り算も合理的に説明できる。

 また、この方式だと、「単位」というものをしっかり捉えることができる。「はじめに数ありき」ではなしに、「単位をもとにして、いかにして数が生まれるか」ということの本質が理解されるのだ。つまり、遠山さんは「数」から出発するのではなく、「量」から出発し、これを数量として表現したものが「数」だと考える。

 たとえば、面積を求める場合を考えよう。ある不規則な形をした図形の面積を求めるにはどうしたらいいか。それはそれをまず、小さな正方形に分割することである。そしてつぎに、その小さな正方形がいくつあるか数えるわけだ。

 もし、その図形にその小さな正方形が23個含まれれば、その図形の面積はその小さな正方形を「単位」として、「23よりも大きい」というふうに測定される。それではさらに、正確な面積を求めるにはどうしたらよいか。

 それには単位として使ったその小さな正方形をさらにもっと小さな正方形に分割し、これで残りのスペースを埋め尽くせばよい。たとえばもとの正方形の縦と横を10分割すれば、面積が1/100の微小正方形がえられる。のこりのスペースにこれが68個埋まれば、そのもとの図形の面積は「23.68」という風に計算できるわけだ。

 この方式はもちろん、直線の「長さ」を求める場合でも、物体の体積を求める場合にも使うことができる。そればかりではない。この方法がわかっていれば、「微分・積分」という高等数学がよく理解できる。

 なぜなら、まさに「微分・積分」はできるだけ細かく分割し、これらを足し合わせて面積や体積を求める方法だからだ。数学の本質理解に基づく「水道方式」はそのまままっすぐ高等数学への最良の入門にもなっている。

 遠山さんが算数・数学教育に関心をもちだしたのは、自分の子どもが算数嫌いになったためだという。そのとき算数の教科書を見て、「こんな教科書ではわからないのは当然だ」と考え、1952(昭和26)年に,数学教育協議会を結成し、数学教育の改良運動に身を投じた。

 こうしてあみだされた「水道方式」は日本の算数・数学教育を世界のトップクラスの水準に押し上げた。「水道メソッド」は海外でも知られており、現在世界の算数の教科書はほとんどこの方式に基づいているといって過言ではない。

 ただ、本場の日本において、まだまだ暗記による計算至上主義が受験数学の弊害として残っている。遠山さんは「数学入門」(岩波新書)のあとがきで、この点に触れてこう書いている。 

<数学嫌いをつくり出した原因のなかのもっとも大きなものは、ひねくれた難問にあるといっても過言ではない。そしてそのようなひねくれた難問をつくり出したものが、明治以来衰えることなく続いてきた激しい入学試験であることもたやすく理解できよう。・・・

 数学という学問の本当の姿は、素直でのびのびしたものである。ひねくれて見えるのは入学試験という歪んだ鏡に映したいつわりの姿にすぎない。しかも、そのように素直な数学こそが実際の訳に立つことを強調したいのである。人間がつくった問題はひねくれているが、自然のつくった問題はもっと単純でのびやかな姿をしているからである>

 遠山さんは、「教え方さえよければ、算数・数学が分からぬ子供はいない」という。そして、「算数の勉強は楽しい」ともいう。算数や数学に限らず、学ぶことは楽しいものである。算数・数学が苦手だという人、水道方式でもういちど、数学の世界に挑戦してみてはどうだろうか。

(参考サイト)
「水道方式とは何か」
http://www.jtu-net.or.jp/manabi/whatis_1.html


橋本裕 |MAILHomePage

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