橋本裕の日記
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今週から授業が始まった。月曜日には1年生の自分のクラスの授業があった。プリントをくばり、まずは生徒に解かせてみる。プリントにはたとえばこんな問題が並んでいる。
5−3= 3−5= (−3)+(−5)= (−2)−(−4)=
できる子は10分ほどで解いてしまう。非常勤の先生が1年生の他のクラスを受け持っているが、私のプリントを参考にして同じ様な授業をしたところ、一部の生徒が時間をもてあまして困ったという。
「先生、もっとむつかしい授業をしてください。僕たち二次関数とかも勉強したいんです」とまで言われたという。そうした「できる」生徒たちにとって、「5−3」などという小学生にでも解ける問題は自分たちが馬鹿にされたようで面白くないのだろう。
さすがに「5−3」ができない生徒はいなかった。「3−5」もほとんどができる。3番目の問題は半分ほどの生徒ができる。4番目のタイプ問題になるとむつかしい。しかし、もちろん出来る生徒はいる。そしてやり方がわかれば、他の生徒にも解くのはそうむつかしくはない。
そこで、問題が簡単だという生徒に質問してみた。 「どうして、3から5が引けるの。その結果が−2ということはどういうことかな。みんなに分かるように、例をあげて説明してくれるかな」
「だから、小さい数から大きい数を引くときはマイナスになるんだよ。そんなこと常識じゃないか。中学校でならったぜ」 「うん、そのとおりだね。でも−5って何だろうね。どういう場合にこんな式があらわれてくるのかな」
たとえば、「5個のリンゴがあって、3個食べてしまった。残りは何個ですか」と問われたら、「5−3=2」 という式で答えが得られる。だったら、「3−5=−2」という計算が使われるのは、どんな問題の時だろうか。「さあ、わかる人はいるかな?」とクラスに問いかけてみた。
数式にはかならず、その式で表される「現実」があるはずだ。その現実のことを、私は「数式のストーリー」と読んでいる。数式を見たら「ストーリー」が思い浮かぶようでなければならない。そうでないと、数式は無味乾燥な記号になってしまう。これでは数学は面白くない。
「3−5=−2」については、「アルバイトをして3万円もうかったけど、5万円つかってしまった。さあ、何万円の赤字かな」という風な物語が考えられる。この例を示してやると、生徒たちも次々と例を考え出してくれた。
最後時間が足りなくなり、私は大急ぎで机の間をまわり、生徒たちのプリントに「検印」をおして歩いた。私の授業はこの検印がないと平常点がもらえないしくみになっている。だから手抜きはできない。「ああ、疲れた。ひさしぶりに頭をつかったよ」という生徒の声が、私の耳にとどいて、私はシメシメと思った。
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