橋本裕の日記
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高校に入学したとき、母方の祖父の手作りの机をもらった。それまで私は小さな座り机の下にミカン箱を置いて、腰掛け机として使っていたが、これはあまり見栄えのよいものではなかった。だから祖父から本格的な作りの机を貰ったときはうれしかった。
この机とあわせるようにして、スチール製の本棚を買った。机と本棚がそろって、祖母と共用していた私の四畳半の部屋も少しアカデミックな雰囲気になった。机の前に坐っていると、何となく自分が偉くなったような気がしたものだった。
高校時代の私は、学校から帰るとまずこの机の前に座った。そして学校の図書館で借りてきた本を読んだ。夕食を終えて、風呂に入ったあと、再び机の前に坐った。そしてまた、読書をする。学校の勉強はほとんどしなかったが、とにかく貪るように本を読んだ。
小遣いはたいてい書物代になった。買うのは安い文庫本ばかりで、これが本棚に並び始めた。私は本棚に並べる前に、背表紙に購入順に番号を付けた。このため、40年あまりたった今も、私の書斎の本棚には、背中に番号が打たれた文庫本が見つかる。
3.「学生に与う」 河合栄治郎 8・「少年時代」 トルストイ 10.「旅人」 湯川秀樹 39.「創造的進化」 ベルグソン 47.「フランクリン自伝」 フランクリン 50.「ジャン・クリストフ」 ロマン・ロラン 61.「物理学はいかに創られたか」 アインシュタイン 67.「車輪の下」 ヘルマン・ヘッセ 69.「孤独な散歩者の夢想」 ルソー 79.「人間にとって科学とは何か」 湯川秀樹・梅棹忠夫 94.弁証法十講 柳田謙十郎 この他、デカルトの「方法序説」や、ラッセルの「数理哲学入門」も探せばあるはずである。残念なのは、1番目と2番目の蔵書が欠けていることだ。これも探せばどこかにあるのかもしれない。
背表紙に番号を付ける習慣は大学に入ってからもしばらく続いたから、いったい高校時代にどれだけの本が本棚に並んでいたか、実のところあきらかではない。おそらく200冊ほどではなかったろうか。
ちなみにジイドの「一粒の麦もし死なずば」は246番だが、これは大学生になって読んだ記憶がある。269番の「科学と仮説」(ポアンカレ)もそうだ。いずれも福井の「品川書店」のカバーがかかっているので、大学1年生の時、福井に帰省して読んだ本だろう。これらの本も処分することになるが、その前にもう一度読み返してみたい。また、読み返すだけの価値のある本である。
本棚を見ていて思うことは、青春時代になんという豊かな読書体験をしていたかということだ。そして現在でも、読書は私の最大の喜びである。私は本さえあれば人生に絶望しない。これも高校時代に「読書」という、よき習慣を身につけたたまものだ。そして、この習慣を私にプレゼントしてくれた、祖父の手作りの大机に感謝したい。
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