橋本裕の日記
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もう二十年以上前になるが、私の教え子の生徒が突然学校を休むようになった。まじめな頭の良い、ちょっと可愛い女生徒だった。気になって担任の先生に訊いてみた。
「さなだ虫のせいですよ。排便のときそいつが肛門から出てきたそうです。ところがウンの悪いことに、途中でちぎれてしまったらしい」
少女は自分の身体のなかにそんな気持ちの悪い生き物が棲んでいたことがショックだったようだ。しかも、ちぎれた半分が残ったままである。そいつの他にもまだ別のものが住んでいるかも知れない。そんなことを考えると、恐怖感が襲ってきてたまらなくなったのだという。
私が子どもの頃は、虫下しをよく飲まされた。そうすると排便のときにカイチュウが出てきた。たしかに気持のいいものではない。まして、その何倍もあるサナダムシだったら、たまらないのではないだろうか。
さいわい残りの部分も排出されて、少女はやがてショックから立ち直り、学校に出てきた。可憐な少女も今頃はもう四十路のたくましい中年女性になっているだろう。本人が読めば少し恥ずかしいような個人情報ではあるが、もう時効だと思って、ここに書いた。
寄生虫学が専門の藤田紘一朗さんは、サナダムシを自分の体内で飼っているのだという。「キヨミちゃん」という名前までつけて、可愛がっているらしい。週刊現代3/4日号の「リレー読書日記」から、氏の文章を引用しよう。
<キヨミちゃんのお蔭で、私は花粉症にならないし、免疫が保たれて、風邪などひいたことがない。キヨミちゃんは私のお腹の中でしか卵が産めない。ネコのお腹の中にはいっても卵が産めないのだ。だからキヨミちゃんは、私を大切にしているわけだ>
<鳥インフルエンザを地球上から消滅させる、と語った学者がいるが、無理な話だ。なぜなら、鳥インフルエンザウイルスは、私たちが人類になる前からカモの中で子孫を増やしてきた。カモは大切にしてきたが、ニワトリや人間が近づくとひどいめに遭わせるのだ>
<ウイルスや細菌、寄生虫といった微生物は、このように縄張りがはっきりしている。つまり人間に棲んでいる微生物は人を大切にするが、動物を棲み家としている微生物は人を害するという訳だ>
自然界の生物はこうした無数の微生物や寄生動物を体内に住まわせている。これによって自らの健康を維持し、ときには外敵ら身を守っている。私たち人類がこうした共生関係を破壊し、いたづらに清潔志向や開発至上主義に走れば、やがて自然は恐ろしいしっぺ返しをすることだろう。
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