橋本裕の日記
DiaryINDEX|past|will
2月10日、日航の新町敏行社長は突然グループ会社の4人の役員の訪問を受け、社長室で辞任を迫られた。新町社長はこれを突っぱねたが、辞任を要求する部長ら管理職の署名は約4百人に達したという。
このことが新聞やテレビ、雑誌にセンセーショナルに報じられ、「日航空中分解寸前」などという見出しが、紙面に踊った。内外の批判がたかまって、ついに3月1日、新町社長は東京・霞が関の国土交通省で記者会見して、6月に辞任することを明らかにした。こうしてひとまず内紛劇の幕は下りた。
日本航空(JAL)といえば全日本空輸(ANA)とならんで日本を代表する航空会社である。鶴のマークをもつ日航機はかって「世界一安全な旅客機」と言われたことがある。しかし、1982年に羽田沖墜落事故、85年には御巣鷹山墜落事件が起きた。現在の日航もトラブル続きである。
民営化されたあと、日航には次々と大物の財界人が送り込まれた。御巣鷹山墜落事件のときの日航会長は経団連副会長だった花村仁八郎氏である。彼は事故後も日航の会長職に居座ろうとして、世論の反発を受け辞任している。
このあと迎えられた鐘紡会長の伊藤淳二氏も、強権的な体質が災いして社内で孤立し、権力闘争に敗れて失脚した。そのあとを継いだ渡辺文夫氏は、経済同友会副代表幹事で東京海上火災会長だったが、この人も指導力がなく、バブル期の放漫経営をとめられなかった。
最近の会社の業績は、利用客離れや原油高などで3月期は470億円の赤字になる見通しだという。有利子負債は2兆円を超えており、このままでは債務超過で会社は銀行管理に移されるかもしれない。
会社の危機をよそに、経営陣は抗争にあけくれ、現場の志気の低下も著しい。たびたびのトラブルに見かねた国交省は、昨年3月、航空法に基づく業務改善命令を出した。会社もトラブルの再発防止を約束したが、その後も乗客の安全性を脅かすトラブルがあとをたたない。改善されなければ業務停止の恐れがあるという。
日航の個人筆頭株主である糸山英太郎さんはHPで、こうした日航にあいそをつかして、「外資への売却も選択肢の一つ」と書いている。経営危機がさらに深まれば株価はさらに下がり、鶴のマークをつけて颯爽と世界の空を飛び続けてきた日航も、やがて外資に買収されるかもしれない。
こうしたなかで、民営化されたJALをふたたび国営に戻そうという動きもある。その場合は、日本経団連会長の奥田氏の登用もありうるという。しかし、これまでのいきさつからみて、誰がトップに立っても改革は容易ではない。その理由は、日航の内部の派閥抗争がすさまじく、会社としてのまとまりを欠いているからだ。
JALには職能別に9組もの労働組合がある。パイロットはパイロットで、整備士は整備士でというぐあいに同じ会社の中に組合がせめぎあっている。そのために職場に一体感はなく、賃金格差も烈しい。年収3千万円のパイロットと、年収4百万円の契約スチュワーデスがおなじ機内で仕事をしていて、しかも反目しあっている。
こうしたことは、会社側が労働組合の切り崩しを狙って、つぎつぎと別の組合を立ち上げた結果である。経営陣が権力闘争にあけくれ、現場でも労組が乱立していがみあっている。こうした労働環境のなかでトラブルが頻発しているわけで、ふたたび大きな事故が起こらないか心配である。
社外取締役の諸井虔・太平洋セメント相談役は一連の内紛劇について、「日航は危機に直面している。社内で抗争している場合ではないのだ」と怒っている。日航は私企業で株式公開しているが、もとは国有で私たち日本人の貴重な財産だった。
日航が立ち直るために必要なのは、何よりも「職場の和」ではなかろうか。まずは、組合が団結することである。そして経営陣は姑息な労働組合の分断をやめることだ。瀕死の鶴が生き返り、ふたたび颯爽と世界の空に羽ばくのを見てみたい。
|