橋本裕の日記
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2006年03月02日(木) |
男女の比率はなぜ違うのか |
世の中には男子ばかりが生まれる家系や、女子ばかりという家系がある。私の場合は娘が2人で、私の弟は息子ばかり4人、義兄も息子3人である。私のまわりを見回しても、ずいぶん子供たちの性別に偏りが感じられる。
遺伝学者ハリスによれば、ある家族は過去300年間で9代までさかのぼったとき、35人の子どもが産まれているが、そのうち33人が男で、女は2人しかいないという。しかも生まれた女の子も一人ははやく死に、もう一人も体毛が濃くて、産婦人科から子どもは産めないといわれたらしい。
精子にはx染色体をもつメスの精子と、Y染色体をもつオスの精子がある。こうした男系の家に生まれた男の場合、Y染色体の働きが強くて、オスの精子の方が優先的に卵に到達できるメカニズムを持っているのかも知れない。
これと反対に、サイクス博士は女性が23人で男性が4人しか生まれていないルイス家の例を紹介している。これはY染色体の力を封じる何らかのメカニズムの存在を示唆している。サイクス博士は母系相続されるミトコンドリア遺伝子がその女系優先のメカニズムを創りだしているのではないかと見ている。
たしかに、母系家族と父系家族の存在を、父系相続されるY染色体と、母系相続されるミトコンドリ遺伝子の利己的な闘いという風に、ドラマチックにとらえることもできそうだ。しかしこうした仮説が実証されたという話を聞かない。
また、男女の比率を全体で見たとき、男子のほうが女子より1.06倍多く生まれるという統計がある。ここでもY染色体の利己的な性格により、男子の方が生まれやすいという解釈もできそううだ。しかし、これについてサイクス博士は「娘が誕生したあとよりも、息子が誕生したあとのほうが子作りをやめるほうが多い」という夫婦の社会行動的な面を指摘している。
最初に女が生まれたときと、男が生まれたとき、2人目を生もうとする夫婦の熱意に微妙な差が生まれるかも知れない。こうしたことが、男女の出生率の違いになって現れている可能性があるというわけだ。しかし、これは本当だろうか。これは高校の数学レベルなので計算してみよう。
たとえば「男女の生まれる確率は等しいとして、最初に女が生まれたときに限り2人目を生む」という単純化されたモデルで、夫婦のもつ男の子の人数と女の子の人数の期待値(統計上期待される平均値)を計算してみよう。
このモデルでは一組の夫婦が持つ子どもの組み合わせは、次の3つの場合に限られる。男1人に対して、女1人という場合が存在しないので、ここで男女の非対称性が生まれている。また、3つの場合について、それが生じる確率は1/2か1/4である。
(1)男1人(確率1/2) (2)女1人、男1人(確率1/4) (3)女2人(確率1/4)
男子の人数の期待値=1×1/2+1×1/4=3/4(人) 女子の人数の期待値=1×1/4+2×1/4=3/4(人)
したがって、100組の夫婦の平均値で考えると、男子の数は75人、女子の数は75人で、意外なことに男女同数になる。
以上の説明がわかりにくい人は4組の夫婦で考えるとよい。4組の夫婦があるとすると、平均してこの中の2組の夫婦は子どもは男子一人だけだ。なぜなら、男子が生まれる確率は1/2であり、男子が生まれればもう子どもを生まないからだ。
さて残りの二組は最初が女の子なので、もう一人生む。2番目に男子か女子かはやはり半々である。したがって、平均すると、一組は女子と男子になり、もう一組は女子と女子になる。そこでこの4組の夫婦が生む子どもの数を男女別に合計すると、
男子の数=1+1+1=3(人) 女子の数=1+2=3(人)
その割合は1:1で、やはり男女の数は同じである。サイクス博士のいう「娘が誕生したあとよりも、息子が誕生したあとのほうが子作りをやめるほうが多い」ということからは男子の数の優勢を説明できないことがわかる。 (計算ミスがあったので、日記を書き直しました。思いこみは恐ろしいですね)
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