橋本裕の日記
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将来、人間のY染色体が駄目になったとき、人間はどうなるのか。おそらく、このピンチを何らかの方法で切り抜けようとするに違いない。そのくらいの知恵は期待したい。
ショウジョウバエの場合は、XXがメスで、Xがオスだという。人間もYを失って、ショウジョウバエのようになるのだろうか。そこで改めて、他の生物たちはどうやって雌雄を決めているのか気になった。
サックス博士の「アダムの呪い」を読むと、いろいろな方法が紹介してあって面白い。いくつか紹介してみよう。まずは、無性生殖をするというハシリトカゲの例である。
ハシリトカゲにはオスがいない。観測されたのはすべてメスばかりだという。おそら昔はオスとメスがいたのだろう。しかし、いつからかオスが姿を消し、メスばかりで繁殖する方法を選んだらしい。
メスのトカゲが卵を生み、そこから母親と全くおなじ遺伝子をもつ娘がうまれる。このトカゲの世界にはなんら面倒な男女の関係は起こらない。こうしたユニセックスの世界も、それなりに効率的で、未来の人類の一つの方向かも知れない。オスがいなくなれば、人間の世界もいくらか平和的になるだろうか。
珊瑚礁の海にベラ科のブルーヘッドという美しい魚が泳いでいる。この魚は典型的な一夫多妻制である。つまり、オスは1ダースくらいのメスをしたがえ、ハーレムのようなうらやましい生活を送っている。
ところで、焼き餅をやいた人間が、そのオスを捕獲してメスから隔離したらどうなるだろう。オスがいなくなったメスの群は生殖能力を失うのだろうか。
ところがそうはならない。メスのなかで一番体の大きいのが、からだの色を変え、いなくなったオスとそっくりのけばけばしい衣装を身にまとうようになる。1週間ほどかけて変身し、見かけも中身も立派なオスになる。そして自らが、新しいハーレムの主になるのだ。
つまり、ブルーヘッドは状況に応じて自由に性を変えることができるわけだ。文字通り両刀使いなわけである。ブルーヘッドは性別を決める方法として染色体に依存することを放棄し、ただ集団からオスがいなくなるというシグナルをきっかけに性転換する方法を開拓したわけだ。こうした方法を選ぶ人類の一派もあらわれるかもしれない。
世の中には想像もできないような奇抜なつがいもいる。海中生物のポリネリアがそうだ。マングローブの茂る湿地帯の穴からいメートルちかい嘴を出して暮らすこの見かけの悪い虫も、メスしかみあたらない。
みあたらないのも道理で、オスはじつは数ミリしかなく、しかも一生のほとんどをメスの子宮内で暮らしている。そしてメスの栄養分で生活し、メスが卵を生んだときだけ精子をつくりだし、授精させる。これは尻に敷かれるというなまやさしいものではない。
それではどうやって、オスとメスの選別が行われるのか。それはメスの体内に生み出されたあと、幼虫が成熟したメスの近くにいてメスに呑み込まれたものがオスになり、そうでないものは、メスに成長するのだという。つまり、メスにのみこまれたら、オスになるしかないわけである。だからポリネリアもまた性を決めるのに染色体に依存していない。
もっと有名なのはウミガメの場合だろう。穴の中に産み付けられた卵に性別はない。ウミガメの場合も染色体で性別を決めていないからだ。性別を決めるのは、孵化するときの砂の温度である。
砂の温度が34度Cに近ければ、その穴の卵はすべてメスになる。20度に近ければすべてオスになる。それでは中間の温度のときはどうなるのだろう。その場合はオスとメスがいりまじるのだという。
もし、地球の温度が相対的に下がって、砂の温度がどこも20度よりも低くなったらどうなるか。そうなれば、ウミガメはオスばかりになり、生殖できなくなる。
こうしたことが、恐竜に起こったのではないかといわれている。つまり恐竜も隕石の衝突で地球が慣例化したとき、オスばかりになって絶滅した可能性がある。
性別の決定を温度にたよっていると、こうした悲劇に見舞われる。そこで哺乳類や鳥類は性別を染色体メカニズムに頼ることにしたのかも知れない。そして寒い時代や暑い時代を生き残ったのだろう。
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