橋本裕の日記
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2006年02月15日(水) 高額納税者の公示がなくなった

 今年から法律が改正されて、高額納税者の公示がなくなった。犯罪のターゲットになりやすというのがその主な理由らしいが、低所得者がふえるなかで、所得格差をあまり露骨に知らせたくないということもあるのだろう。

 去年は外資に勤務する株ディーラーが日本一になって、世間を驚かせた。一方、ホリエモンの所得は意外に少なかった。高額納税者を公示するというのは、たんにこれを顕彰するというだけではない。脱税などの不正行為をチェックする機能もある。また、時代の傾向も分かり、国民経済を分析する重要な資料だけに、廃止されたのは残念である。

 国税庁の調査では、サラリーマンの給与は過去7年間連続して減少している。家庭の4分の1が月収20万円以下で生活している。国民金融資産が1400兆円もあるというのに、預貯金を保有していない家庭が23.8パーセントあり、生活保護家庭の割合も増加している。

 国民年金保険料の未納率も2001年から急上昇をしており、その65パーセントが「経済的に支払いが困難」だと理由をあげている。失業率は2002年の5.5パーセントから4.4パーセントまで回復したというが、これも非正規社員の増加によるものである。こうして所得格差は拡大している。

 総務省の発表では、若年層の男性の完全失業率は9・9%になっているが、実質的な失業者であるニートも含めれば、実際には40パーセントに近いといわれている。フリーターの場合、生涯賃金は5200万円程度と推計されていて、正規社員の4分の1である。しかも27歳での収入が最高賃金だという。これでは自分一人が生きるのが精一杯で、家庭を築き、子どもを教育することはむつかしい。

 犯罪もふえつつあり、刑務所はどこも収容率が100パーセントを越え、あらたに各地で建設されている。コストを削減するために、これからは民営化をすすめるというニュースも流れた。年間の自殺者は3万人をはるかに越え、この5年間で16万人以上の人が自らの手で人生途上の死を選んでいる。とくに家庭をもつ働き盛りの中高年男性の自殺が増加している。

 こうした中にあっても、NHKの世論調査によると、「格差はあったほうがよい」という人の割合が4割近くあり、「格差はないほうがよい」とほぼ拮抗している。まだ多くの日本人が「競争社会」を生き抜き、そこで勝ち組になる希望を捨ててはいない。そして、こうした向上心をもつことは、ある意味で好ましいことだとも言える。

 能力と努力によって、収入に差が生まれるのは仕方がないことだ。これを否定すれば活力のない悪平等の社会になるだろう。しかし、「お金がすべて」とばかり他者をうち負かし、競争に勝つことだけが人生ではない。お互いに助け合い、支え合って生きるのが、人生の本来の姿である。

 私たちはこの基本を忘れずに、その上でフェアに競争して、自他の向上をはかりたいものだ。競争も必要だが、大切なのは競争条件を公平で平等にすることである。そしてできることなら、この競争は自分だけが勝つための競争ではなく、まわりの人をも幸せにする競争であってほしい。

 社会がこの基本さえ忘れなければ、高額納税者は多くの国民によって尊敬され祝福されるだろうし、その公示は向上心を持つ人々の励みにもなるだろう。安心して高額所得者を顕彰できる、そうした健やかで心のゆたかな社会を創りたいものだ。


橋本裕 |MAILHomePage

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