橋本裕の日記
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2006年02月16日(木) 小泉構造改革の虚妄

 1997年、橋本内閣は財政の健全化をうたい文句に、消費税率を3パーセントから5パーセントに引き上げた。さらに所得減税の廃止、社会保障の国民負担増で、あわせて9兆円の大増税を行った。

 これによって前年度の名目成長率が2.6パーセントまで回復していた日本経済は、いっきに崩壊した。株価は暴落し、銀行の債権は株価の含み益を失って不良債権化し、大手証券会社や銀行があいついで破綻した。

 アメリカのゴア副大統領は1997年3月来日したとき、橋本首相に「日本はなぜ内需抑制策をとるのか。内需を拡大して経済を活性化すべきではないか」と進言したという。ゴアのみならず、これが多くの外国の政治家や経済学者の意見だった。

 しかし橋本首相や当時の大蔵官僚はこれらの声に耳を傾けなかった。財政赤字を解消するには、増税と緊縮財政しかないと考えたのである。こうした無謀とも言える橋本財政改革で、上向きかけていた日本経済に冷や水が浴びせられた。

 これによって日本はふたたび不況に突入し、失われた10年という言葉が定着した。税収はかえって縮小し、赤字が増えて、財政はますます悪化した。橋本氏は2001年4月の自民党総裁選挙で、「私の財政改革は間違っていた。これで国民に多大の迷惑をおかけした。国民に深くお詫びしたい」と謝罪した。

 2001年の段階で、日本経済はようやく立ち直り掛けていた。橋本内閣の後をついだ小渕内閣が一転して減税と、公共投資拡大路線をとったからだ。1998年に国会で可決された「金融安定化60兆円」の法案によって、金融恐慌も回避することができた。

 こうして2000年には47兆円にまで縮小した税収が再び50兆円台を回復した。名目成長率も回復し、このまま推移すれば3パーセントを超える勢いだった。株価も回復しつつあり、2000年度の主要銀行の不良債権比率は5パーセンで、銀行貸し出しもはじまっていた。橋本氏の謝罪は、こうした経済回復基調のゆるんだ雰囲気のなかで生まれた。

 しかし、大方の予想を覆して、橋本氏は総裁選で敗退し、小泉内閣が発足した。そして皮肉なことに、小泉首相は橋本氏が間違っていたと謝辞した財政改革路線をふたたび継承した。こうして歴史はふたたび、振り出しにもどって繰り返されることになった。

 小泉政権のもとで、株価は下落し、ふたたび銀行の不良債権比率がみるみる上昇した。銀行の収支が悪化するなかで、小泉首相は不良債権の解消を強く迫り、銀行はこの処理のために保有する株を主に外資に安く売り払った。これによって株価はさらに低迷するようになった。

 銀行の貸ししぶりで、中小企業は資金繰りが苦しくなり、倒産があいついだ。また大企業でもリストラが相次ぎ、正規社員がパートに置き換えられた。これによって家計の収入は減少し、これが消費の後退をまねいた。日本経済はこうしてふたたびデフレの暗いトンネルに入った。

 小泉改革がなければ、税収は60兆円台に達していただろうといわれる。しかし、2000年には50兆円を超えた税収も、2003年には41兆8千万円にまで落ち込んだ。小泉構造改革のもとで、日本は20年前の税収しかない経済にまで落ち込んだ。政府長期債務は縮小するどころか、2004年度末で490兆円に達し、2000年度から140兆円もふえてしまった。

 小泉内閣は経費削減を合い言葉に公共事業を削減した。2001年度から2004年度の4年間を合計すると、その額は1.6兆円だという。しかし小泉政権のデフレ政策によって減少した税収は、2000年の50兆円をベースにしても26兆円に達する。実際は30兆円をこえる財政損失だろう。簡単に言えば、小泉内閣は1.6兆円を惜しんで。30兆円を失った貧乏性内閣だったわけだ。

 もし橋本氏が総裁選挙で敗れるという大番狂わせがなければ、その後の日本はまったく別の展開になっていただろう。中国、韓国とも政治的に友好な関係が築かれ、おそらく日本は中国やその他のアジア諸国のあとおしで、悲願である国連安保常任理事国のメンバーになっていたのではないだろうか。

 日本経済は持ち直しつつあると言うが、これも内需ではなく、アメリカや中国の外需に頼っているだけである。株高も原油高で稼いだ外資の流入がおおきい。日本の主要企業の株は現在30パーセントちかくが外資によって占められているが、株主主権主義の行きすぎが日本の企業や労働者に与える影響も考えなければならない。

 小泉首相退陣後、増税や社会保障の国民負担増が予想される。これがさらに日本経済を圧迫するだろう。ライブドアや耐震強度偽装事件、米産牛肉問題で小泉改革の影の部分が浮かび上がってきている。マスメディアを中心に人気の高かった小泉構造改革だが、その破綻がだれの目にも明らかになるのに、そう時間はかからないだろう。

(参考文献)
「増税が日本を破壊する」 菊池英博 ダイヤモンド社


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