橋本裕の日記
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2006年02月13日(月) 格差社会の行方

 2001年3月に小泉政権が誕生し、しばらくして日本の株価はどん底に落ちた。その後、何年もかけて回復してきた。これを小泉構造改革の成果だとする見方があるが、どうだろうか。

 小泉首相はたしかにいろいろな改革をやった。とくに経済分野では会社法を変えたり、外資の導入についても、思い切った規制緩和をした。道路公団や郵便局も小泉政権のもとで民営化されることになった。

「民間でできることは民間で」というキャッチフレーズは多くの国民に支持され、小泉政権はこれまでにない支持率を維持してきた。朝日新聞をはじめマスコミも基本的に小泉構造改革に賛成で、これに反対する人々を「抵抗勢力」と位置づけ、小泉改革の背中を押した。

 そして昨年9月に総選挙では地滑的な勝利を収め、野党の党首をして、「小泉首相と改革を競う」とまでいわせた。この選挙には財界首脳も鉢巻をしめて自民党を応援した。「改革」という言葉が錦の御旗のように私たちの頭上に振り回され、新聞もテレビもこの熱にうかれた。

 経済は回復してきているという。株価も去年1年間で4割も上昇し、バブルではないかとまでいわれている。有効求人倍率も改善した。銀行もこの株高を背景に大幅な黒字になり、不良債権もほぼ解消したという。

 たしかに、小泉首相の経済政策は一定の成果を上げつつあるようにもみえる。しかし、その一方で、貧困率が上昇し、経済格差がひろがった。株高にしても、これを享受できる層はかぎられている。小泉首相は当初、「格差はみかけほど大きくない」と述べていた。しかし、2月1日の衆議院本会議ではこう答弁している。

<格差が出るのは悪いこととは思っていない。能力がある者が努力すれば報われる社会という考え方は、与野党問わず多いと思う。小泉改革は弱者を切り捨てるものではない。一時期敗者になっても、また勝者になりうる社会の実現を目差すのだ。悪平等はいけない>

 これを読んでいて、去年の暮れに読んだホリエモンの「稼ぐが勝ち」を思い出した。ホリエモンが強調していたのも、この点だったからだ。ホリエモンはこう書いている。

<経済の二極化によって上流層、下流層という二つの国ができる。でも下流層が上流層に入るプロセスがわかっていれば、2つを自由に行き来できる>

 たしかに、私も悪平等はいけないと思う。能力や努力によって経済収入に差が生まれるのは当然のことだ。これを否定したら、小泉首相のいうように悪平等の社会になってしまう。しかし、こうした収入の差をどこまで認めるかということである

 「格差」というのは、この差が大きく拡がり、しかも固定した状態をいう。それは最早能力や努力が報われる社会とはいえないような社会である。日本はそうした経済的に二極化した階級社会になりつつある。そうした方向性でよいのかというのが大きな問題なのだ。

 ホリエモンは中学時代は新聞配達をしていたそうだ。毎日10キロ近い道を歩いて学校に通っていたという。特別裕福でもない一般の家庭に育った彼が、才能と努力によって東大に合格し、しかも大学を中退して600万円借金してベンチャーをはじめ、10年間で株価時価総額1兆円の巨大な企業グループのトップになった。

 ホリエモンはこの実績をもとにして、実力主義、能力主義のすばらしさを歌い上げ、「下流層が上流層に入るプロセスがわかっていれば、2つを自由に行き来できる」と説いた。これが多くの若者のみならず、小泉首相をはじめとする政界や財界のエリートにも感銘を与えた。

 しかし、ホリエモンは逮捕され、その後の調査で違法行為があった疑いが濃くなっている。ホリエモンのような偉才にしても、下流層のみならず中流層が上流層に浮上するのはなかなかむつかしい。

 東大生の多くは中流以上の家庭に育ち、その親も東大はじめ有名大学卒の学歴エリートである割合が多い。政界や財界をみてみても、二世、三世が花盛りである。そうした人々が、「格差はあって当然」であり、「一時期敗者になっても、また勝者になりうる社会の実現」と言っても、あまり説得力はない。

 朝日新聞の調査によると、所得格差が拡がってきていると考える人は74パーセントで、40代、50代の男性では83パーセントにのぼるという。日本には格差が存在する。この格差は小泉改革のもとで大きく広がり、これからも広がり続けるだろう。「格差はそれほどではない」と言葉を濁していた小泉首相も、「格差はあって当然」とはっきり述べるようになった。

 問題は「格差があるかないか」ではなく、この格差がこれからの日本社会をどのように変えていくかである。それは私たちがどのような社会を目差しているかという、政治や経済においてもっとも大切で、本質的な問題につながっている。


橋本裕 |MAILHomePage

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