橋本裕の日記
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21.大学院受験
九月中旬のある日、私は特急しらさぎ号で名古屋に向かった。地下鉄の本山駅で降りて、二十分ほど歩くと大学の構内で、両側の丘陵に白いコンクリートのビルが並び、秋の日差しを浴びていた。巨大企業の研究所のように見えた。
丘の上に講堂が建っていた。その脇に薄茶の煉瓦張りの物理学科の建物が数学科や生物学科の校舎と並んでいた。名大の理論物理は坂田昌一教授の素粒子理論で国際的に有名だった。その現場を前にして私の胸は高鳴った。是非合格したいという思いがこみ上げてきた。
下見を終えると、大学の前からバスに乗って、テレビ塔のある街の中心に来た。表通りから入ったところに、「CBCホテル」という看板を見つけた。「ご休憩」いくらと書いてあるのが不審だったが、料金が安いので泊まることにした。 「お一人様ですか」 係りの女性が怪訝な顔で私を見た。
案内された部屋には、ダブルベッドに枕や浴衣が二つ置いてあった。私がこのホテルが男女の特別な用途の施設だということに気付いたのは、深夜になってからだった。和風の造りの旅館だから、周囲の部屋の声が届いてきた。その声が想像を絶していた。翌朝は寝不足の赤い眼をして、大学へ行った。
受験場で弘子と合った。金沢から来たのは彼女と私だけだった。弘子にはラブホテルに泊まったことは言えなかった。彼女は近くの東山ユースに泊まったようである。
数学の試験のあと、弘子を昼食に誘ったが、彼女は金沢に帰ると言い残して私の傍らを離れた。彼女は明日から始まる金沢大の大学院に二股を掛けていた。私は名大しか出願していないので、背水の陣で頑張るしかない。彼女と別れると、大学の食堂でランチを食べた。午後から物理の試験があり、一日目が終了した。
私は表通りにあるビジネスホテルに宿を変えた。夜中に暴走族がやってきたが、前夜に比べればましだった。どうにかその夜は眠ることができた。
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