橋本裕の日記
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2003年06月23日(月) あかね雲

16.夜の山

 カラスや鳶がしきりに鳴いている夕方、私はふらふらと立ち上がると、洗濯紐をポケットに入れた。卯辰山に登り、見納めに街の夕焼けを見ようと思った。

 山の展望台に立ったとき日没は過ぎていたが、日本海の空にはまだ余韻が残っていた。その明かりも刻一刻と薄れて、街の灯りが浮かんできた。浅野川の橋を渡る車のライトも見えた。

 耳を澄ませれば木立を渡る風の音に混じって、街の喧噪が聞こえてきた。雲が出ていたが、隙間に星明かりが見えた。ベンチに腰を下ろしていると、夜風が吹き抜けていった。

 私は人の気配を感じて振り向いた。男女のカップルが少し離れたところに立っていた。彼等も警戒してこちらを窺っているようだった。私はベンチを立つと、反対側から展望台を降りた。
(ああした青春もあるんだな)
 私は山を下りながら考えた。今頃二人はベンチに腰を下ろして、甘い言葉をささやき合っているのかも知れない。山にはカップルが他にも来ているのだろう。

 登る途中に枝振りのよい松の木があった。そこまで引き返すのに十分もかからなかった。私はポケットから紐を取りだそうとして、二人の影に気付いた。
 二つの影は私の前に来て立ち止まった。

 巡回中の警察官だった。一人が懐中電灯を私の顔に向けた。
「ここで何をしているのかね」
「散歩です」
 私は自分が痴漢だと疑われているのに気づいた。

 たしかに夜の孤独な散歩は痴漢だと誤解されるのに十分だった。身分証明書の提示を求められたが、持ち合わせていなかった。一人がフラッシュを焚いて私の顔写真を取った。
 警官が去った後、気を取り直して寺に帰ってきた。


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