橋本裕の日記
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14.春の海
二度目の留年が決まり、私はさすがにうちひしがれた。弘子や多くの友人も、今年は四年生に進級していた。私だけが三年生のまま取り残されることになった。
四月になったある日、朝刊を終えてぼんやりしていると、十時頃に芳子が寺にやってきた。 芳子はもうすぐ東京に帰ることになっていた。 「橋本さん、今日、お暇?」 「うん、暇だよ」 私は留年の話をした。芳子は感づいていたようだった。 「気分転換が必要ね。海を見に行きましょう」 芳子に誘われて、私はジャンバーを着た。
外は春の日が射していた。金沢駅前から北鉄電鉄に乗った。 電車は民家の軒先をかすめるようにして走り、終点の内灘まで三十分ほどだった。駅から海岸まで砂丘の道がアカシアの林の中を通っていた。 坂道を上ると、日本海が眼前に見えた。海岸には人気がなかった。砂浜に腰を下ろし、風に吹かれていると、すぐに体が冷えてきた。
芳子から体を寄せてきた。私は彼女の肩を抱き、そして成り行きで唇を合わせた。私にとって最初の接吻だったが、思ったほどの感動はなかった。 私たちはすぐに体を離した。芳子が立ち上がったので、私も立ち上がった。 「白山がきれいね」 芳子に言われて振り返ると、白山連峰の白い山並みが屏風を広げたように連なっていた。雪国らしい眺めだった。
私たちはそれから波打ち際を日本海の荒波が打ち寄せている防波堤まで歩き、再びアカシアの林の砂丘に入った。日溜まりの砂丘のなかで、私の方から体を寄せて芳子の唇を吸った。 私の手がはじめて彼女の胸に触れた。 私たちはそれから手を繋いでアカシアの林の中を歩いた。
アカシアの林がつきると、ひっそりとした新興住宅街の一角だった。商店街の外れにある広場から金沢行きのバスに乗った。 バスは三十分ほどで香林坊に着いた。
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