橋本裕の日記
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図書館へ行って、本を借りてきた。石田波郷の俳句の本と、金子みすゞの詩の本だ。波郷は私が好きな俳人の一人。私がよく口ずさむ春と夏と秋の句を一つずつ引いてみよう。
バスを待ち大路の春をうたがはず
プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ
雁やのこるものみな美しき
「雁」は「かりがね」と読む。昭和18年、波郷に召集令状がきた。千葉県の佐倉連隊に入隊した波郷はまもなく朝鮮を経由して中国大陸へ派遣された。この句は日本を去るときの形見の句である。「雁」は彼自身の姿であり、残るものとは彼の愛する家族であり、友人であり、日本の美しい伝統と自然であろう。もうひとつ、波郷の句を引こう。私の大好きな句なので。
朝顔の紺のかなたの月日かな
波郷の句は叙情性が豊かで、ほのぼのとして懐かしい。私もこんなやさしい俳句を詠んでみたいものだと思っている。波郷は私のあこがれの俳人だが、もう一人、私のあこがれの人がいる。金子みすゞである。彼女の「波」という詩を引用しよう。
波は子供、 手つないで、笑って、 そろって来るよ。
波は消しゴム、 砂の上の文字を、 みんな消してゆくよ。
波は兵士、 沖から寄せて、一ぺんに、 どどんと鉄砲うつよ。
波は忘れんぼ、 きれいなきれいな貝がらを、 砂の上においてくよ。
波は「こども」「消しゴム」「兵隊」「かくれんぼ」、なるほどと思う。海岸の砂地の上に腰を下ろして波を眺めていると、これからはこの詩が浮かんできそうだ。波が置いていってくれたきれいな貝殻を拾えば、みすゞの美しい生涯が偲ばれるだろう。
<今日の一句> 川波も 春の調べを ささやけり 裕
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