橋本裕の日記
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41.湯上がりの女 和江のことがあるので、貴子とのトランプには身が入らなかったが、それでも30分が過ぎ、1時間が過ぎると、ようやくひと心地ついて、貴子とのトランプあそびに心が向いた。
貴子が少し前からはじめたのは、一人でするトランプ占いで、なんでも最後に同じ種類のカードがそろえばいいのだそうだ。 「たとえば、ハートが4枚とか、ダイヤが4枚とかそるえるのよ。そしてなるべく、点数を高くするの」 貴子の最高はハートの32点だという。
「ハートとダイヤとどちらがいいの」 「ダイヤを選ぶかハートを選ぶか、それはその人の価値観よ」 「ダイアはお金で、ハートは心かな、それではクラブやスペードはなんだろうな」 「ある本によると、ハートは聖杯、ダイヤは貨幣、スペードは剣、クラブは農具を現しているそうよ。聖職者、商人、貴族、農民の象徴らしいわ」 トランプは14世紀頃イタリアでうまれたらしい。ちなみに、スペードのKはダビデ王、ハートのKはカール大帝、クラブのKはアレキサンダー大王、ダイヤのKはシーザーだという。 「ダイヤのKだけ横を向いているでしょう。どうしてだかわかる?」 「さあね」 「隣のクレオパトラをみているからよ」
貴子は私に占いのやり方を教えると、キッチンに立っていった。そしてなかなか戻ってこなかった。こんな夜遅く買い物にでも出かけたのかと思ってキッチンをのぞくと、椅子の上に衣服が脱いであった。アパートの間取りは私のと同じだから、玄関を入ってすぐがキッチンで、その一角に浴室がある。脱衣室があるわけではないので、キッチンで服を脱いで浴室に入るしかない。
私は貴子の脱いだ衣服を取りあげると、そこに坐った。磨りガラス越しに、貴子の肢体がおぼろげに浮かんでいた。貴子は立ったままシャワーを浴びているようだ。やがて、浴室の扉が開き、貴子の裸体が現れた。私は貴子の脱ぎ捨てた衣服を膝の上に置いたまま、彼女の肢体に見ほれていた。
貴子はバスタオルで胸元を覆うと、私の手から衣服を受け取って、そのまままキッチンを出ていった。貴子も私も無言だった。貴子の裸体は思いのほか爽やかで、ほのぼのと美しかった。私は清冽な泉に出会った旅人のような清々しい感動から、すっかり言葉を失っていた。
<今日の一句> せせらぎを 妻と歩けば ねこやなぎ 裕
日曜日には妻と木曽川の川辺を1時間ほど歩くことにしている。運動不足解消のためだが、今の季節、ひんやりとした風がなかなか気持がよい。昨日は雲雀がしきりに鳴いていた。川辺にねこやなぎが群生していた。
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