橋本裕の日記
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2003年02月21日(金) 民主主義と余暇

 民主主義という考え方や制度はギリシャの都市国家で生まれた。どうしてギリシャに民主主義が生まれたのか。それはギリシャの都市国家が自由な市場を持つ通商都市だったからだ。交易を通して、人々は知識や富を手に入れた。アリストテレスが言うように、そうした経済的な繁栄が余暇を生み、学問や民主主義を生み出した。ふたたびラミスの本から引用しよう。

<人が集まって議論したり、話し合ったり、政治に参加するには時間がかかる。そういう暇がなければ、政治は出来ないのです。政治以外にも、人は余暇で文化を作ったり、芸術を作ったり、哲学をしたりする、とアリストテレスは言いました>

<政治的に言うと、そういう勤務時間以外の時間があってはじめて、人が集まり、自由な公の領域を作ることができる、そういう考え方だった。この自由な公の領域をギリシャ語ではアゴラと言います。私たちはどうやって生きるべきか、どういう選択をすべきか、どういう政治形態を続けるべきか、そういったことが、そこで議論されたのです>

 今日、私たちの文明ははるかに進歩した。しかしギリシャの古代都市国家に住んでいた人々に比べて、私たちが自由な時間に恵まれているかどうか疑問である。むしろ現代人は古代の人々に比べて遙かに忙しく、時間に追われた生活をしているのではないだろうか。経済の発展が人間に余暇を恵むどころか、その反対に人間からますます自由な時間を奪っているように見えるのは何故だろう。

 それは私たちが経済活動によって生み出される最高の果実が余暇であるという考えを捨てたからだろう。余暇よりも物質的な蓄財を選んだのである。余暇を楽しむことではなく、財産を貯え、贅沢をすることが経済活動の目的になってしまった。そこで人々は寸暇を惜しんで働き、お金持ちになろうとあくせく努力をする。そしてそれがこうじると、他人の富を奪うべく武器を手に取り、軍隊を作って戦争をする。

 こうした傾向が次第に顕著になってきた。その理由として近代においてはとくに経済活動そのものが組織化し、管理が強化されて、個人の自由を疎外していることがあげられる。ラミスは、会社の組織というのは軍隊組織の真似だと書いている。たしかに会社の組織は軍隊と似ている。そこには個人の自由はなく、そこで最も重要なことは、上からの命令や管理に服従することだからだ。

<政府の官僚制度もそうですが、会社の組織というのは基本的に軍隊組織の真似だと思います。どちらも軍隊組織の基本的な論理を使っているので、とても似ている。ピラミッド組織としてのヒエラルキーがあり、一番上に決定権のある人がいて、命令は上から下に下りていく。下の人は上の人に対して尊敬をこめた言葉を使わなければならないし、上の人が下に対して命令する権利をもっている>

<会社組織は軍隊と同じように、労働者に、少なくとも勤務時間をひじょうにきめこまかく管理する。会社も軍隊と同じように少なくとも勤務時間のなかには、民主主義の論理、自由の論理、平等の論理は当てはまりません。勤務時間のあいだは非民主的な生活をみんな送っているわけです>

 ラミスによれば、今日では経済活動そのものが軍隊の組織をまねて、非民主主義的な生活を私たちに強要するようになっているという。とくにこのことは経済大国といわれた日本の場合、痛切にあてはまったのではないだろうか。日本の経済の強さは、こうした個の論理を否定した集団的組織力の威力に負うところが大きかったからだ。

 しかし、日本も含めて世界はいま曲がり角に立っている。軍隊組織をまねた競争至上主義の経済組織をこのまま延命させ、強化させたところで、人類が平和で幸福に暮らせるわけではない。それどころか人々はますます閑暇を失い、強制労働と他者との戦いの中で自己を失って人間疎外に陥るだけだ。

 ギリシャ人によると、「奴隷の定義は余暇のない人間」だという。アテネの市民から見れば、現代人はだれもかれも憐れむべき奴隷に見えるだろう。それではどうすればいいのか。ラミスは「経済を民主化すること」「自分自身を民主化すること」が大切だという。

<ここでも忘れてはならないのは、経済価値や政治権力と同じように、文化は、文化庁や一握りの文化人が作るものではなく、民衆が作るものである、ということです。子供たちが学校で、家族が家庭で、労働者が職場で、あらゆるところで人々は文化をたえず作っています>

<文化によって人間社会にあるさまざまなものの「価値」が決まりますが、今の消費文化のなかでは、お金の価値(つまり値段)がついていないものには価値がない、それどころか、存在感もないことになっています。今後、経済の交換価値(値段)以外の、本物の価値を評価できる感性・美意識を中心とする文化が復活すれば、市場経済が持つ私たちに対する支配力はかなり弱まるでしょう>

 自己を民主化するというのはどういうことか。それはラミスが書いているように、おしきせではない自己固有の文化を自らの中に育て上げるということだろう。市場での評価や権威にとらわれず、自分の感性と意志を持ち、大勢に押し流されないたしかな目と心をもつということだ。

 そうすれば自由とはなにかということも自ずとあきらかになる。それは自分の言葉と感性をもつということだ。そしてそれによって、政治や経済などのあらゆる社会的な活動に主体的に参加するということだ。そしてそのためには、あらゆる創造的活動の母胎となる閑暇を大切にしたいものだ。

(「何でも研究室」に「ギリシャ入門」をUPしました。ご覧下さい)

<今日の一句> 血圧を 測れば寒き 夜更けかな  裕

 医者に言われて、朝昼晩3回、血圧を測っている。昨日の昼は上が192で下が132だった。毎日190を越えている。50歳をすぎれば儲けものの人生だと思っていて、何時死んでも悔いはないが、長生きして世界放浪の旅ができればそれにこしたことはない。少し摂生しようかと思う。まずは大好きなたくあんの漬け物を食べないことだろう。


橋本裕 |MAILHomePage

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