橋本裕の日記
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| 2003年02月11日(火) |
トヨタには余剰人員がいない |
トヨタの奥田会長が「トヨタは終身雇用を守りたい」と発言し、好感をもたれている。「年功序列」「終身雇用」「企業内組合」は日本式経営の「三種の神器」と言われた。日本が高度経済成長を続けた時代には、これが日本経済の強さの秘密だとも言われた。
バブルがはじけて、企業の経営が悪化すると、「年功序列」や「終身雇用」の維持がむつかしくなった。そこでリストラと称される首切りがどこの会社でも実施された。とくにバブル期に多くの社員を採用し、余剰人員を抱えている企業はこに「不良債権」を処分しなければ経営が成り立たなくなっている。
しかし、日本には「終身雇用」という言葉が定着していたので、これには社員や国民の心理的抵抗があった。しかし、背に腹はかえられないということで、例えば日産などは外国人のゴーン氏を社長に迎えてこれを断行した。今後、こういうケースが増えてくるだろう。
ところで、トヨタの場合は「終身雇用」が維持できるのは何故だろうか。業績がよいということもその理由の一つだが、もっと根本的な理由がある。奥田会長によると、「もともとトヨタには余剰人員がいない」そうである。余剰人員がいないので、人員のリストラも必要ではないということらしい。
それでは何故、トヨタに余剰人員がいないのか。それは無駄な雇用をしなかったからである。驚くべきことだが、トヨタはこの40年間、バブルの時期もふくめて従業員をふやしていない。そのかわりパート労働や契約社員を増やしてきた。さらに、どんどん仕事を下請けに出した。
トヨタの「看板方式」は有名だが、これは「必要なときに必要なだけ」という在庫をゼロにするシステムである。在庫をゼロにするということは、「無駄を省く」ということだ。これは社員にもあてはまる。この原理をトヨタはもう40年間も、他の企業に先駆けてやっていたわけだ。トヨタの強さの秘密はここにある。
トヨタの下請けいじめは有名だった。日本電装といえばトヨタの子会社だが、一時関係が悪化したことがある。トヨタの系列から抜けだし、ホンダや他の企業との取引をはじめ、トヨタからの受注を6割まで落とした。そこでトヨタは株の買い占めなどさまざまな手段で圧力をかけた。
トヨタは自らは「終身雇用を守る」と言っているが、株式を保有する系列の子会社にはリストラをたびたび強要してきた。奥田氏自身がこれを指示し、また経団連会長という立場から銀行などの他業種についてもリストラを促している。実際に、いま銀行の窓口にすわっている係りの女性はパートや契約社員に置き換えられているというが、実はこうした経営の合理化をトヨタはすでに完了していたわけだ。というわけで不良債権をもたないトヨタが日本で有数の優良企業になった。
勝てば官軍ということで、書店に行けばトヨタ礼賛の記事がならんでいるが、私はそう手放しで礼賛する気にはならない。しかし、トヨタの堅実な経営は見習うべきだろう。バブルの時代に手足り次第人を採用して、必要でなくなれば「どうぞやめて下さい」ではあまりに無責任である。そうしたなかで、「社員を大切して、終身雇用を守ります」と発言する奥田会長は仏のように見える。トヨタの株が上がるもわかる。
しかし、米倉誠一郎一橋大教授(経営学)は奥田碩会長も出席していた日経連セミナーで、「いわゆる『日本型経営』がうまく機能したのは、戦後、四十年ほどの特殊な時代環境においてのこと。人間尊重を唱えながら、単身赴任、窓際族の発生など、日本の企業社会にはマイナス面も多い」と批判した。
私も「終身雇用」も「年功序列」も「企業内組合」も前近代的で、できることなら精算したい時代遅れのシステムだと思っている。野口悠紀夫東大教授によれば、これらはいずれも戦時中に国民総動員体制のもとで生まれたシステムだという。こうした個人の自由や自立にマイナスに働く慣例は精算するにこしたことはないのだが、問題はその精算の仕方である。
経済は国民に奉仕するためにある。国民が経済に奉仕し、その奴隷なる状況を、これ以上長く続けてはいけない。そして、それを改善できるのは私は「政治」だと思っている。国民の福利厚生を企業に任せるのではなく、国がもっと責任を持つべきである。
「年功序列」「終身雇用」にかわる国民のセーフティネットを早急に構築し、また必要な法を作り、国民が安心して暮らしていける環境を整えたいものだ。そうすれば将来への不安も払拭されて、世の中が明るくなり、経済もいささか好転するだろう。
(奥田会長はトヨタに余剰人員はいないと言うが、一方でリクルートと提携して、人材開発・再教育のための機関を設立しようとしている。トヨタにも余剰人員が発生することは考えられる。そのための布石だろう)
(参考サイト) http://www.president.co.jp/pre/19981200/03.html
<今日の一句> 寒き風 歩けばたのし 汗匂ふ 裕
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