橋本裕の日記
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| 2003年02月09日(日) |
タイタニック地球号の運命 |
日本は今不況にあえいである。しかし、一見不幸だと思われるものごとも、後に振り替えってみると、神様が与えてくれた大事なプレゼントだと思われるときがある。私は自分の人生をふりかえって見てつくづくそう思うのだが、それは個人の人生に限らない。社会の歴史においても同じである。
ピンチはチャンスという言葉がある。逆境の中で私たちはより思慮深くなり、また大胆にもなる。新しい発想が芽生えるのもそういうときだ。これまでの惰性で生きることができなくなったとき、私たちはようやく自己を変革し、新しい道に踏み出す勇気を与えられる。
今、私たちの住む地球は大きな危機を迎えている。実のところ、それは人類の存亡にかかわるほどの危機である。ダグラス・ラミスはこれを氷山に衝突して沈んだタイタニック号の悲劇になぞらえている。衝突寸前まで、船の中では宴が催されていた。誰一人、まさか自分たちの載っている船が沈むとは考えていなかった。もしそんなことを口にする人間がいても、相手にされなかっただろう。
現在の人類の危機がタイタニック号と違っているのは、この危機を口にする人がたくさんいて、しかも氷山の在処まで分かっているという点だろう。たとえばすでに1972年にローマ・クラブが「成長の限界」という本を出して、経済成長が地球を破壊するという警告を発している。これを受けて、国連も毎年のように国際会議を開き、さまざまな議決をしている。
たとえば1999年には国連環境プログラムがナイロビで会議を開き、「地球環境展望2000」という報告書を出した。そこにいかに地球の環境破壊は危機的な状況にあるかが書かれている。そして「先進工業国の資源消費量を9割減らすことを目標にせよ」と提言している。そうしないと、人類はやがて重大な生命の危機をむかえるのだという。
これより少し前、様々な専門家を動員して書かれた「グリーンニング・ザ・ノース」という本がドイツでベストセラーになった。この本ではドイツ政府に具体的な提案をしている。たとえば、石油や石炭の使用を2050年までに80パーセントから90パーセント減らす。原子力発電は2010年までに100パーセントなくす。そしてエネルギー消費量そのものも半分にするということなどだ。
このように、資源の消費を大幅に減らさなければ人類に未来がないことはもうだれもが分かっている。しかし、実際にこれを行おうとすると、各国の利害がからんできて、足並みがそろわない。そして、景気が悪くなり、エネルギーの消費量が落ちると、これはたいへんだと大騒ぎになる。たちまち「経済成長優先」に戻ってしまう。その先頭を走っているのがGDN大国のアメリカと日本である。
<これはまるでタイタニック号が氷山にぶつかる前に、船のエンジンが故障して止まってしまったというような状態です。乗っている人たち、船員があわてて一生懸命エンジンを直そうとしている。早くエンジンを直し、もう一度スピードを出して走りたい、そういう状況です。止まってよかったと考えている人は、あまりいない。しかし、もう一度走り出す、進み出すということは、もう一度その氷山に向かって進み出すということです>(ダグラス・ラミス、前掲書)
ラミスは再び成長路線にもどるのではなく、これを契機にして、「経済成長なしで、どうやって豊かな社会を作るか」という問題に解答を与えることが大切だという。しかし小泉首相やブッシュ大統領の頭の中にあるのは、エンジンを直して再び成長路線を走りたいという焦りばかりのようだ。タイタニック地球号に乗っている大方の人の願望もそのようだ。バブルの夢よ、もう一度というわけだ。
いま私たちに必要な思想や感性は、たとえば「我なんじらに告ぐ、栄華を極めたるソロモンだに、その装いこの花の一つにもしかざりき」(マタイ伝6章)という聖書の言葉の中にさりげなく語られている。摩天楼という文明のバベルの塔をではなしに、野に咲く一本の楚々たる花を通して、自然の不思議といのちの美しさをしみじみと感じ取る心を、もっと大切に慈しみたいものだ。
<今日の一句> 湯浴みして 雨の音きく 夜更けかな 裕
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