橋本裕の日記
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2002年12月06日(金) 岐路に立つ日本社会

 先日NHKの「クローズアップ現代」で「刑務所で何が起きているか」という題で、日本の刑務所の現状が徹底的にレポートされていた。名古屋刑務所で「革手錠」を使った受刑者への集団暴行があり、刑務官5人が逮捕された。こうした事件が起こった背景に何があるのかよくわかる内容だった。

 名古屋刑務所で暴行された受刑者は保護房に8回収容され、「革手錠」をたびたび掛けられたという。受刑者はその状況を記し、人権侵害を訴える手紙を弁護士会に出していた。名古屋弁護士会の面会調査を2日後に控えた9月25日に、彼はさらなる暴行を受けた。

 両手首を通した革手錠のベルトを腹部にきつく巻かれた。この結果、腹部を切開し、小腸を約四十センチ切り取った。名古屋刑務所の桜井智舟所長は10月4日の会見では、受刑者への暴行を「正当な職務行為の範囲内」と述べていた。

 革手錠使用は国連の人権委員会で問題になり、法務省の通達で控えるように指導されていた。これをうけて全国的に減少している中、名古屋刑務所ではむしろ突出して多くなった。平成13年に58件だったのが、今年は9月末までに158件と急増していた。

 こうしたことが生じた背景には、服役者の増大による刑務所の中での過密と、それによるストレスの増大があるようだ。この結果、服役者同士、服役者と刑務官の間にトラブルが絶えなくなり、秩序の維持に腐心する刑務所が、一部の刑務官の暴走を許した結果だという。

 こうした悩みを抱えているのは、名古屋刑務所だけではない。徹底した規律のもと、暴動も逃走もほとんどなく世界でもトップクラスと言われてきた日本の刑務所に今、異変が起きているのだという。

 日本最大の刑務所、東京の府中刑務所では、犯罪の増加を背景に収容者がこの5年間で1.4倍に急増。収容率は110%を超え、ストレスをためた受刑者によるトラブルが増加、現場の刑務官たちの負担もぎりぎりのところまで来ている。

 番組では府中刑務所の一人の刑務官に密着取材し、その勤務がいかに大変であるかを伝えていた。作業場では彼一人が60人の受刑者を監督しなければならないが、受刑者の中には異国籍で日本語が通じない人たちも多数含まれている。いれずみをした暴力団関係者もいて、隙をねらって仕事をさぼろうとするので目が離せられない。

 そうした中で毎日のように喧嘩や刑務官への暴行事件が起こっている。番組の取材中にもたびたび警報が鳴り、現場に直行する刑務官達の緊張した様子が写し出されていた。インタビューに応じた刑務官は「なめられないように、いつも緊張していなければならない」と苦しい胸の内を語っていた。半数以上の刑務官が「暴動」が起こる不安を訴えているという。

 トラブルを起こした受刑者はインタビューに答えて、「人が多すぎるのでストレスがたまる。満員電車にいるようなものだ」と訴えていた。6人部屋に8人が寝ていた。食堂には収容しきれないので廊下に机を並べて食べていたが、肩と肩が触れ合うほどだった。いつも誰かと体が接触する。それをきっかけに喧嘩になるのだという。受刑者の中には一人になりたくて、自ら「保護房」を希望するものまでいる。

 いずれ服役者の大部分は社会に出ていく。刑務所はこれまで厚生施設としての教育的役割を帯びていた。しかし、今、刑務所はたんなる強制収容のための隔離施設にかわりつつある。日本の刑務所が曲がり角に来ているといわれる所以だ。

 定員オーバーは更に悪化しそうである。しかし、新たに刑務所を作るには何百億という費用がかかる。インターネットで統計を調べてみると、日本の刑務所には現在6万人以上の服役者がいるが、これだけの人間を収容し、寝食の面倒を見、これを監督する社会的コストは馬鹿にならない。

 しかし、アメリカの場合はこれが180万人を超えている。この先、アメリカ型の競争社会になれば、犯罪は日本でも多発するだろう。世の中に訴訟と犯罪があふれ、膨大な受刑者が発生し、これを収容するための刑務所や刑務官も今の10倍以上にふやさなければならない。弁護士や裁判官、警察官も同様である。その社会的コストは信じられないほど高額になり、私たちに税金としてはねかえってくる。

 曲がり角に来ているのは、刑務所ばかりではない。社会からの隔離施設と化しつつある日本の学校もそうである。実は日本の社会自身がおおきく変質しつつあり、今まさに正念場にさしかかっている。どのような社会を私たちは望んでいるのか、手遅れにならないうちに社会の進路について、私たちは賢明な選択をしなければならない。

<今日の一句> 小春日に 冬服脱いで あくびする  裕


橋本裕 |MAILHomePage

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