橋本裕の日記
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2002年11月12日(火) 雁風呂

 今年の夏は暑かった。しかも10月に入っても、残暑が続いた。それからいきなり寒くなった。夏からいきなり冬が来たような感じである。11月に入って真冬のような寒さである。一昨日、NHKのテレビで福井で初雪が降ったと報じていた。観測史上一番早い初雪だそうである。

 毎年、今頃の季節になると、渡っていく雁の姿をよく見かけた。朝、通勤途中に、木曽川の堤に車を止めて、オカリナを吹いていると、編隊を組んで流れていく雁の姿が、次々と眺められたものだ。ところが今年はあまりこの光景を目にしなかった。これも異常な気象の影響だろうか。少し心配になって、検索で「雁」のことを調べてみた。そしていろいろと物知りになった。

 雁の飛行形態は、「雁行」と呼ばれるが、これは空気抵抗を少なくするためで、航空力学の法則に適った形だそうだ。しかも先頭を飛ぶ鳥は常に交代して、お互いに負担を軽くしている。最後尾を飛ぶ鳥が、先頭に踊り出て、それを何度も繰り返しているらしい。

 「雁渡る」は、俳句の秋の季語で、陰暦8月を「雁来月」、陰暦9月に吹く風を「雁渡し」などと呼んだ。つまり、冬鳥である雁は、10月頃寒地から来て、春にまた北方に帰る。古くから詩歌に多く詠まれ、「雁の別れ」「名残の雁」などの季語を生んだ。他にも「雁風呂」などという風流な言葉がある。

  雁風呂や海あるる日はたかぬなり  高浜虚子

 雁はシベリアから、日本海を越えて飛来する。そのため、嘴に木片などをくわえ、途中翼を休めるために、それを海面に置いてその上に留るという。そして、日本北部に飛来した雁は、不要となった木片を浜辺に捨て、そこからそれぞれ別れて、本州沿いに南に渡っていく。

 やがて春が来くると、雁たちは故郷へ帰るべくもとの飛来地へ帰ってくる。そして飛来時に自分が嘴にくわえてきた浮木を探し出し、またそれをくわえて、シベリアへ飛び立つ。

 しかし、すべての雁が飛来地に帰ってくるわけではなかった。多くの雁が、猟師に撃たれ、天敵に襲われ、あるいは病に倒れて、故郷へ帰還できずに命を落とす。そうすると、仲間の雁がふたたびシベリヤに去った後、そこに命を落とした雁の数だけ浮木が残されることになる。

 飛来地の一つ、青森県の外が浜にも、そうした死んだ雁の浮木が多く形見として残された。外が浜の人たちは、そうした哀れな雁の冥福を祈るために、浜辺で浮木を集め、これを薪として風呂を焚いたのだという。

 やがて、この伝承は全国に伝えられ、その哀れな物語は人々の心に染みわたり、「雁風呂」はいつか俳句の季語として江戸時代以降、広く知られるようになったらしい。

<今日の一句> 雁風呂の いわれを知りぬ 秋の夜  裕 


橋本裕 |MAILHomePage

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