橋本裕の日記
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2002年10月10日(木) 杓子定規な判決の悲劇

 昨日の「サンフランシスコ悲話」について、渚の王子様から、貴重な情報をいただいたので、全文引用させていただこう。そのあと、北さんからいただいた意見について、私見を述べてみたいと思う。

  ーーーーーーーー 渚の王子様の書き込み ーーーーーーーーー

 僕にとってサンフランシスコは「第二の故郷」みたいな町です。今日の日記で取上げられていたので、懐かしく読ませて戴きました。

 ところが、「ヨハン・アウグスト・ズーター」という名前は初耳で、首を傾げました。僕は留学中、彼の地で観光ガイドのアルバイトをしていましたから、SFの歴史には詳しいのです。橋本さんが根拠の無いことを書く筈がないので、僕も検索しましたが、初耳の訳が分りました。

 実は、現地での呼び名は「ジョン・サター」なのです。SFのダウンタウンには、サター・ストリートという通りもあるくらいで、歴史上の人物です。ただ、少し解せないのは、サターが居住していたのはSFから150Km東のサクラメント近郊であり、金の発見もその辺りなのです。

 従って、サターがSFの町の土地所有権を主張したとは思えないのです。彼の悲劇について僕は今回驚きでした。本件の信憑性は、引き続き調べてみたいですね。Yahooで検索した限り、裁判の話は見つかりませんでした。勿論、見落としの可能性もありますが、何か狐につままれたような感じがします。

 ーーーーーーーーーーー 引用終わり ーーーーーーーーーーーーー

 ますます謎が深まった。シュティファン・ツヴァイクの「人類の星の時間」(みすず書房)を読みたくなった。ヨハン・アウグスト・ズーターというのはドイツ語の本名だろう。いまわしい悲劇が隠蔽され、歪曲されている可能性もあるのではないか。私ももう少し調べてみたい。いずれにせよ、貴重な情報をありがとうございました。

 さて、北さんから、昨日の日記で紹介したサンフランシスコ事件について、そもそもズーターの訴えや、裁判所の判決が不可解だという意見が出された。掲示板におおよその答えを書いたが、ここでもう少し補足を加えて、この問題に対する私の考えをまとめておこう。とりあえず、昨日書いたズーターの裁判事件が歴史的事実だと仮定しての話である。

 住民の立ち退きと賠償を求めたズーターや、彼の主張を認めた裁判所の判断はそれ自体妥当なものだ。当時カルフォルニアは未開の地が残っていて、そこにズーターが入植して農園を作ったわけで、先住民がいたわけでもなく、当然ながらそうして開拓された土地には当時の法律に従って彼の所有権がつく。

 もし私の家の庭に小判でてきたら、その小判の所有権を私は主張するだろうし、他人が入り込み、私の家を壊して野宿をはじめたら、私も又立ち退きを裁判所に求めるだろう。ズーターが行ったことは、この意味でなんら不合理でも、不可解なことでもない。誰でもが考える当然なことを、正当な法の手続きによって行っただけである。そして裁判所は私有権を認める合衆国憲法と法律に従って、正当な判決を下したわけである。

 しかし、これを現実にそこで暮らしている1万7220人もの住民の立場になって考えてみると、彼等に立ち退きを命じることは、およそ現実的とは思えない無慈悲な判決であることもたしかだ。裁判所の判断はあまりに法律に則った杓子定規なものに思われる。合法的であっても、現実的な判決とは言えない。おそらく北さんが「不可解」と感じたのも、住民側に立って考えたからだろう。

 裁判所はズーターの主張を一方的に認めるのではなく、もう少し人道的な見地に立って柔軟に対処してもよかったのではないか。必要ならば、超法規的な判断が、もっと上部のワシントン辺りからあってもよかった。法律は守られなければならないが、その運用にあたっては、もう少し慎重に、諸般の事情を考慮すべきだったと思われる。

 実情を無視して、法律の条文のみにとらわれると、こうした血の通わない理不尽で不可解な判決が下され、原告と被告の双方に悲劇を生むことがある。法律が対象としているのは、あくまで生きた人間だということを忘れてはならない。この悲劇的事件(もし仮にあったとしての話)から、私たちはこうした教訓をくみ取ることができるのではないかと思っている。

(補足)アウグスト・ズーターで検索したところ、次のようなHPが出てきたので、参考までに上げておきます。(検索google)
  http://www.noguchi.co.jp/archive/diary/010901.html

 なおサンフランシスコについては、次のような記述があった。
<サンフランシスコ。人口73万、全米13位、日本人9500人。都市圏人口684万人、全米4位、サンフランシスコ湾は、1769年スペインの探検家ガスパ・デポルトラにより発見され、アッシジの聖フランシスにちなんで市の命名がなされた。1848年、ジョン・サッターの製材所より金鉱が発見され、1849年のゴールドラッシュの本元地となり、たちまちカリフォルニア州の金融および保険センターとなった>
 なお、カルフォルニア州が合衆国に編入されたのは、ゴールドラッシュがはじまった頃で、当時のカルフォルニア州はほとんど無政府状態だったらしい。

<今日の一句> まるまると 小鳥もわれも 秋の空  裕


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