橋本裕の日記
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11.猪勝庵で 大学から歩いて20分のところに、「猪勝庵」(いかつあん)という馴染みの大衆食堂があった。私たちはそこの座敷に腰を落ち着けた。いつも食べていた好物の「豚鍋」を注文し、ビールを飲みながら、よもやま話に花が咲いた。すこし顔を染めた市ノ瀬さんが、
「この連休に、どこか遊びにいかないか。橋本君、どこか面白そうなところはないかい」 「山登りはどうだい。若狭の方に、青葉山というきれいな山があるんだ」 「高さはどのくらいあるの」 「700メートルくらいだよ。その頂上に立つと、若狭の海が一望できるよ。一度登ってみたいと思っていたんだ。朝早く出かければ、日帰りで行ける。今は若葉がきれいだろうな」
私は小学生時代に住んでいた若狭を、この連休中に訪れたいと思っていた。青葉山は若狭富士という異名をもつ富士山のようなきれいな山で、私はその山の麓の村で2年ほど暮らしたことがあった。私はそんな話を、S子やK子にもしたことがあった。K子をこの連休中に誘おうかと思っていたが、S子のことがあって、K子に対する気持が少し引けていた。
「そのくらいに山なら、登ってもいいな」 「運動不足の解消になるかもしれない」 市ノ瀬さんと渋谷さんは乗り気だった。Mさんは「いきたいな」と言ったきり、ただ笑って、私たちの話を聞いていた。やはり執筆中の博士論文が頭から離れないのだろう。
私も連休中はテニス部の公式試合があり、付き添いで、少なくとも二日は休日が潰れそうだった。雨が降ったり、勝ち進んだりすると、ときには連休がさらに潰れることも起こってくる。遊びに行こうにも、スケジュールが立たないのがつらいところだった。私が職員手帖を取り出して、首を捻っていると、
「その時はいっそ、橋本君のテニス部の応援に行くことにするか。テニスウエアの似合う可愛い女高生もたくさんいるんだろう」 渋谷さんが、浮き浮きした調子で話を向けてきた。 「それはいるよ。もう、ほれぼれするくらい、美人で肌のきれいな子がいてね、渋谷さんなら、すぐに鼻血を出すだろうな」
私の脳裏に、一人の少女のやさしい微笑が浮かんだ。テニス部の副部長をしている3年生の早百合という生徒だった。そう言えば歌手の「石川さゆり」に似て、声もきれいな少女だった。私はその少女にテニスを習っていた。私のテニスの腕は、彼女の指導で、いくらか上達していた。
三人はその少女のことを、もっと聞きたがった。ビールが入っていた私は、いくらか口が軽くなり、 「彼女がコートに立つと、何だかあたりが明るくなるんだ。はっと花が咲いたようにね。白いスコートから伸びた脚がきれいでね、もうほれぼれするよ」
私は気持が高揚して、うわずっていた。もう、このくらいで止めなければと思いながら、いつになく多弁で、声の調子も高くなっていた。ビールを飲み過ぎたのがいけなかったようだ。
<今日の一句> ルーズ脱ぐ 白い素足の 涼しさよ 裕
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