橋本裕の日記
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映画「インサイダー」をビデオで見た。<内部告発>を正面から描いた社会派映画である。実話に基づき、個人および企業をすべて実名のままで登場させているところが凄い。監督はマイケル・マン、1999年のアメリカ映画である。
巨大タバコ産業に身を置く科学者で、意に反してやむをえず内部告発となった孤独な男ジェフリー・ワイガンドを、ラッセル・クロウがしぶく演じている。そして彼を支援するジャーナリスト、ローウェル・バーグマンをアル・パチーノが熱演している。脚本は「フォレスト・ガンプ/一期一会」でアカデミー賞に輝いたエリック・ロスだ。
アメリカ社会の企業社会の暗部が大胆に描かれている。しかし同時に、社会悪に対して戦いを挑む男達の心あたたまる友情と連帯感が描かれ、アメリカ社会のふところの大きさを思わせる。この映画には派手な銃撃戦もカー・チェイスもないが、心を凍らせる恐怖と熱い感動があった。以下に、そのあらすじを簡単に紹介する。
大手たばこ会社ブラウン・アンド・ウィリアムソン(B&W)の研究部門副社長としてタバコのニコチンの害を少なくする研究していたワイガンドはある日突然解雇を言い渡される。この解雇を不服としたワイガンドは、おりから連絡してきたCBSテレビの人気報道番組「60ミニッツ」のプロデューサーのバーグマンに、彼のテレビ番組で内部告発者として発言するよう求められる。
一方、ワイガンドは企業から行動を慎まなければ「守秘義務違反」で訴えると警告される。会社との守秘契約を破れば、退職金も医療保険も失う。さらに、犯罪者として監獄入りも覚悟しなければならない。巨大な資金をもち、優秀な法律事務所を多く抱えている巨大産業に太刀打ちするのは無謀なことである。しかし、ワイガンドはさんざん悩んだあげく、自分の良心にしたがって告発への道を選ぶ。バーグマンの番組の収録に応じ、さらに法廷で科学者としてニコチンの害について証言をする。
しかし彼はその前後から、不審な闖入者や尾行者、無言電話におびえなければならなくなる。「一家を皆殺しにしてやる」というe−メールを見た妻は、「もうあなたにはついていけない」と二人の幼い娘を連れて、家を出る。バーグマンの助言でFBIに連絡するが、FBIの捜査官達は反対にワイガンドの拳銃所持に難癖をつけ、彼を侮辱したあげく、証拠の入ったパソコンを強制的に持ち去ってしまう。もはや国家権力そのものを敵に回した感のある不気味な現実がおもむろに姿を現し始める。
やがて法廷での証言の信憑性を損なうために、彼の人格を誹謗するような卑劣なでっちあげの中傷記事が雑誌に出て、その話題がテレビでも放送される。離婚経験があり、訴訟沙汰をおこしてばかりいる性格が破綻したいかがわしい人物としてテレビに写された彼を、別居先の幼い二人の娘達までが目にする。やっと高校教師として職を得たワイガンドの社会的信用はこれによって完全に失墜した。
すべては巨大タバコ産業の冷酷な仕返しであり、悪意に満ちたいやがらせだ。こうしてワイガンドは地位も名誉も、そして家族まで失い、絶望感と無力感にうちのめされる。
一方、バーグマンも苦境に陥る。上層部からワイガンドを説得して作成した内部告発のインタビュー番組の放送中止を言い渡され、さらに現場から遠ざけるために強制的に休暇を取らされてしまう。バーグマンは「あなたたちはビジネスマンか、それとも報道人か」と会社の上層部を問い詰めるが、彼等は組織防衛と、自らの利益しか頭にはない。背後には企業買収の思惑と利害がある。
このままではワイガンドを守り切れないと思ったバーグマンが取った最後の手段は、自らも<内部告発者>となる捨て身の作戦だった。ニューヨーク・タイムズの知人に、自分の手がけた番組がCBS上層部の意向でいかに抹殺されようとしているかを話し、朝刊の一面記事として掲載するように依頼する。バーグマンのこの告発をニューヨークタイムズは一面で華々しく取りあげた。
これによって、ついに巨大たばこ産業のみならず、CBSという巨大報道機関の悪までが暴かれることになった。こうした世論の盛り上がりの中で、窮地に立ったCBSの上層部はバーグマンの番組を無修正で放送することしか道がないことをさとる。
こうして遂にたばこ産業の内部告発番組はアメリカ全土に放送された。インタビューの中で静かにニコチンの害を述べるワイガンドの科学者らしい語りが印象的だ。空港で、家庭で、仕事場で、レストランで、アメリカ国民の目と耳が画面を凝視する。その中にはもちろん、孤独な戦いをしてきた、ワイガンドとバーグマンとその家族達の姿もあった。
これによって、これまであらゆる裁判で常勝してきたアメリカの巨大タバコ産業も完全に社会的信用を失い、その後、健康被害に対して巨大な賠償責任を命じる判決が次々と下されることになった。
二人の勇気ある<内部告発>が、アメリカ社会を変えたわけだ。久々に見た胸が熱くなる骨太の社会派ドラマだった。映画の最後の字幕によると、ワイガンドはその後も高校で化学を教えており、CBSを辞職したバーグマンもジャーナリストとして健在だという。
<今日の一句> 浜木綿に ふるさとの海 しのびつつ 裕
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