橋本裕の日記
DiaryINDEXpastwill


2002年01月17日(木) 日本語のみなもと

 昨日の日記で、日本語は言語の系統があきらかではなく、世界の言語のなかで孤立していると書いた。しかし、これには異論がある。「万葉集」や「古事記」の研究の第一人者で、「岩波古語辞典」の編者として古代の日本語に造詣の深い学習院大学名誉教授の大野晋氏が、「日本語の源流は南インドのタミル語にある」という説を、この20年間粘り強く展開しているからだ。

「日本語の起源」(岩波新書)によると、大野氏がこのことに気付いたのは、英語で書かれたタミル語の辞典を読んだからだという。そして、日本語とタミル語とが、あまりにも鮮やかな対応を示しているのに驚いた。

 「こめ」「なへ」「あぜ」「たんぽ」「かね」「たから」「おる」「はた」「かみ」「まつる」「はか」「あはれ」「さび」など、何百という単語に類縁が認められる。類縁は単語だけでなく、係り結びといった独特な文法構造にも及んでおり、比較言語学の立場からも類似が際立っているという。

 さっそく大野氏は南インドへおもむき、現地を調査した。そして、類似性は風習や文化一般にまで及んでいることを知る。すでに還暦を過ぎていたが、ここから彼の命がけの精力的な研究が始まった。

 彼の説はなかなか受け入れられなかったが、次第に外国で認知されるようになり、タミル大学前学長でタミル語学の第一人者、アゲスティアリンガム教授も、「タミル語と日本語は起源的に親族関係にあると確信した」と、大野説を認めているという。

 それにしても、日本と南インドは遠い。そんな遠いところから、どうやって言葉が伝わってきたのだろうか。大野氏は2千数百年前、縄文時代末期に、タミル人が海路、船団を組んで北九州に到来したと考えている。彼らが稲作文明とともに言語(タミル語)を日本に伝えのだろうという。

 もしこの大野説が本当なら、日本語の源流はタミル語にあることになる。さらにタミル語はその源をインダス文明に遡り、さらにメソポタミア文明へと遡ることができる。つまり、私たちの日本語の起源は遠く、シュメー人の文明までさかのぼることができる。

 こうした大野氏の20年に及ぶ研究成果は大著『日本語の形成』(岩波書店)となって結実した。序文に彼は「私はこの本の序文を書くときまで生きていることができて仕合せである。私の一生はこの一冊の本を書くためにあったと思う」と書いている。読んでみたいが、定価が18000円もする。まずは、どこかの図書館で探してみたい。

(参考文献) 「日本語をさかのぼる」(大野晋著、岩波新書1974)
        「日本語以前」(大野晋著、岩波新書1987)
        「日本語の起源」(大野晋著、岩波新書1994)


橋本裕 |MAILHomePage

My追加