橋本裕の日記
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昨日にひき続いて、映画の話を書こう。メルリ・ストリープの魅力を知る手頃な映画はなにかと訊かれたら、私は「恋に落ちて」(1984年)をあげるだろう。夫がありながら、妻子ある男性と不倫の恋におちて、思い悩むメルリの演技がたまらなくいい。このときメルリは35歳。まだまだ若い。
相手の男を演じているロバート・デ・ニーロは36歳。この二人の名優が、ニューヨークを舞台に、ちょっぴりほろ苦く、哀愁の漂う大人の恋の雰囲気を味あわせてくれる。とりあえず、ストーリーを紹介しておこう。
デザイナーのモリー(メルリ・ストリープ)と、建築技師のフランク(ロバート・デ・ニーロ)の出会いは、マンハッタンにあるリゾーリ書店(57丁目5番街と6番街の間に実在する)。そこで二人はお互いの連れ合いへのクリスマスプレゼントの本を買うが、本屋の雑踏の中でお互いの本を取り違えてしまう。
数ヶ月後、フランクは通勤列車で偶然、本を取り違えた相手を見つける。最初は名前も訊けなかったが、やがて二人は名前を告げあって、通勤列車で待ち合わせる。二人はお互いの家族のことを話し、自分のことを話すうちに次第に好意以上のものを感じ始め、そして、いつか食事をともにし、ニューヨークの街でデートを重ねるようになる。
ある日、モリーからフランクの仕事場に電話がはいり、別れ話をもちかけられる。驚いたフランクは、とにかく駅でまちあわせしたいと告げる。しかし、仕事が長引いて、約束の時間に遅れたフランクは、いそいで駆けつけたプラットホームから出ていく電車を見て悄然とする。
そこに、もう車中の人だと思っていたモリーがあらわれる。モリーもまた、別れ話を切り出しながら、彼に傾いた心を持て余していたのだ。この日、ニューヨークのグランド・セントラル・ステーションで、二人は初めての口づけを交わす。このシーンは何度見ても、ジーンとくるが、それにしても、ここまでくるのに、なんと長かったことだろう。
大人の恋と書いたが、二人は既婚者でありながら、どうかすると、まるで中学生の男女のように、うぶで不器用なところがある。駅でコーヒーを飲みながら、モリーにかける言葉を何度も復唱し、最後は自分の馬鹿さかげんに呆れるフランク。自室の鏡の前で次々とドレスを試着しながら、ふと正気に返ったように鏡の中の自分に、「一体あなたは何をしているの?」と問いかけるモリー。
数日後、モリーは誘われるままに、フランクの友人の家に行き、そこで、フランクにすべてを与えようとするが、最後になって、彼を拒絶してしまう。配偶者がいるのに人を好きになっていくどうしようもない気持や葛藤が押し寄せてきて、モリーはどうしても一線を越えることができない。フランクも後ろからモリーを抱きかかえながら、彼自身の内部にも愛する妻子への思いが渦巻いていて、それ以上強く迫ることが出来ない。
そうしているうちに、再びモリーの口から別れ話が切り出され、こうしていったんは別れた二人だったが、恋の後遺症がその後二人を苦しめる。やがて二人とも、連れ合いに追求されて思わず本音を漏らしたため、家族を失うはめになる。恋人も失い、同時に家族も失った孤独な二人に、ふたたび月日が過ぎて、クリスマスの季節がやってきた。
出会いから一年経ったクリスマス・イブの日。場所も同じ、「Rizzoli」書店に、二人は吸い寄せられるようにやってきて、再会する。去年、モリーが買って、間違えて家に持ち帰った釣りの写真集がそこに並んでいる。それを眺めるフランクに、遅れてやってきたモリーの懐かしい声が届く。だが、なぜか二人は、まるで初対面のようにぎこちない。
二人ともすこしどぎまぎして、遠慮がちに、「元気そうだね」とあたりさわりのない会話をかわし、そして、そそくさと店を出て、モリーは駅の方へ、フランクは反対方向へと雑踏の中を歩く。最初立ち止まるのは、モリー。しかし、もう雑踏に隠れて、フランクの姿は見えない。思いを残したまま、力なく歩き出す。そのときフランクの足が止まる。振り返り、そして彼女を追って、雑踏を押しのけながら駅へと向かう・・・。
クリスマスの夜、恋人と見るには最高の映画かもしれない。しかし、家庭のお茶の間で見るにはふさわしい映画だとは言えない。モリーとフランクにとっては幸せな結末かもしれないが、彼らによって捨てられた家族のことを思うと、割り切れないものがのこる。
同じメルリ主演の映画「マディソン郡の橋」はこの点、まだ納得できる。しかし、若々しいメリルの魅力をふんだんに味わおうと思ったら、やがり「恋に落ちて」が最高だろう。ちなみに、私はこれを昨日自室でこっそりと見て、久しぶりの感激に胸をときめかせた。どんな「理性」も、「恋」の魔力には勝てないと思ったものだ。
この映画には、随所にニューヨークの名所がでてくる。リゾーリ書店、セントラル駅、ティファニーからトランプタワービルあたり。グリニッジ・ビレッジやチャイナタウンも二人のデートコースだ。クリスマスの5番街のイルミネーションやロックフェラーセンターのスケートリンクも見られる。二人の粋で都会風な恋も、こうした背景があって可能になったのかも知れない。
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