橋本裕の日記
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2002年01月12日(土) フランス軍中尉の女

 むかし、よく鬼ごっこをして遊んだものである。鬼になって追いかけていく。そのとき誰を追いかけるかというと、大好きなA子ちゃん。でも、A子ちゃんばかり追いかけていると、えこひいき(?)しているように思われるかもしれない。だからわざと、他の子を追いかける。そして、たまにA子を追う。

 A子の肩に私の手が触れたとたん、追う者と追われる者の立場が逆転する。鬼ごっこの面白いところはここだ。追われていたA子の表情が、一瞬にして、追う鬼の目つきになる。その瞬間の表情の変化が、子供心に印象的でまぶしかった。A子の中にひそんでいた、何やら不思議な魔性が、表に現れてくるという感じである。このとき世界の裏と表がひっくり返る。

 メリル・ストリープとジェレミー・アイアンズが共演した「フランス軍中尉の女」(1981年)を見ていて、そんな昔の鬼ごっこのことを思い出した。映画の主な登場人物は、アナ(メリル・ストリープ)とマイク(ジェレミー・アイアンズ)で、二人はややこしいことに劇中でも映画俳優で、「フランス軍中尉の女」という同名の映画を撮影中である。つまり映画の中で、同じ題名の別の映画の撮影が行われているわけだ。

 二人が共演している映画の舞台は現代だが、作中劇のほうは19世紀の中頃のイギリスのうらびれた港町である。そこに愛したフランス人中尉に捨てられたがゆえに売春婦呼ばわりされる一人の女がいた。港町を訪れた一人の考古学者が、突堤にたたずむ彼女の神秘的な魅力に惹かれ、やがて二人に恋が芽生える。とくに女の考古学者の男に対する恋は狂気に近いものがある。

 そもそもこの二人の俳優、アナとマイクは実生活でも恋人どうして、不倫の関係にある。面白いのは、劇中では女が男を追っているのだが、現実生活では、マイクがアナを追っている。そこで、撮影に入るたびに、二人の表情(とくにメルリ)の表情が切り替わる。追う側と追われる者が入れ替わるところ、鬼ごっこに似ている思ったわけだ。

 実際は、メリルもジェレミーもまったく対照的な二役をこなしている訳だが、その演技が実に絶妙で、私はこの映画でいっぺんにメリル・ストリープのファンになってしまった。ジェレミー・アイアンズも実に切れ味のいい俳優だと思った。


橋本裕 |MAILHomePage

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