橋本裕の日記
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オランダには汚職がないらしい。政治のすべてのプロセスがガラス張りになっていて、そうしたスキャンダルが起こる余地がないからだという。現在の首相は労働党のビィム・コック氏で、大臣たちはいずれも40歳代の颯爽とした若手である。議員もまた能力主義で選ばれており、年齢の比較的若い議員が多いという。
ちなみに国会議員に占める女性議員の比率は36.0%で、調査対象177国のなかで第5位の位置をしめている。日本の女性議員の比率は衆院が4.6%で92位だという。フランスは10.9%(56位)と低いが、今年1月に世界初の「男女同数法案」が下院を通過し、これから大幅な改善が行われそうだ。オランダも元来女性進出の遅れた国だったが、最近は改善が著しい。
こうしたオランダにおける女性進出は、最近の経済的繁栄とあわせて、1982年に政・労・使三者で結ばれた「ワッセナーの合意」によるワークシェアリング政策の賜だが、ビィム・コック氏はこれを成立させた労働側の立て役者だった。
ワッセナーはハーグの郊外にある田舎町で、高級住宅街があるところ。オランダ経団連会長の自宅もここにある。そこへ当時の首相と労働組合連合の会長だったビィム・コック氏がまねかれ、三者で雇用確保を最優先させるとりきめがなされた。
その頃オランダは不況の最中で、12パーセントという最悪の失業率に苦しんでいた。そこでビィム・コック氏はこの会談に臨むに当たり、労働者に対する大規模なアンケート調査を行った。その結果、労働者の過半数がパートタイム労働の促進に賛意をしめしており、たとえ賃金が下がっても、労働時間を減らして、家庭と仕事の両立を望んでいることがわかった。
こうした労働者の意向を背景に、この世界の労働界でも画期的なワークシェアリングの政策が産み出された。そしてこの政策が見事に成功して、10数年後の現在、ヨーロッパの多くの国でいまだに失業率が10パーセントを超えている中で、ひとりオランダの失業率は3パーセントを切ろうとしており、経済は「オランダの奇跡」とよばれる活況を呈している。
オランダのスキポール空港は5本の滑走路を持ち、そのうちの4本が4000メートル級である。日本の成田空港や関西空港が4000メートル級の滑走路を1本ずつしかもたないlことを考えると、その充実ぶりはめざましい。ビジネス誌はスキポール空港をヨーロッパ一、あるいは欧米一の実力を備えた空港として上げている。
空の玄関口とならんで、海の玄関口となるのが、ロッテルダム港だが、ここでは年間3億トンの貨物を扱い、ヨーロッパ域内の3億5千万人の市場の玄関口になっている。ヨーロッパのどの港よりもコンテナの扱い量は多く、その規模は世界で二位である。しかもロッテルダム港からスキポール空港までは80キロしか離れておらずその抜群のネットワークのよさを誇っている。
オランダはIT革命でもヨーロッパの先端を行っており、オランダのパソコン普及率は50パーセントを越えている。アムステルダムの街には公衆電話ならぬ公衆インターネットが点在しており、市民生活のなかに浸透している。
なおオランダ人の外国語力はヨーロッパでも飛び抜けており、たとえば英語が話せる人の割合はベルギーやドイツが41パーセント、フランスが32パーセントに対して、オランダは77パーセントに達する。
ドイツ語はフランスが9パーセント、イギリスが5パーセントなのに対して、59パーセントと、たいていのオランダ人が母国語のオランダ語の他に、英語やドイツ語、もしくはフランス語を話すことが出来る。国際的な情報が飛び交うインターネット時代に、こうした多元語力は大きな武器であり、みえないインフラとしてオランダの経済の躍進を支えているようだ。
こうした中で、労働党を率いるビィム・コック氏が、1994年からキリスト教民主同盟政権にかわりオランダの首相を務めている。与党の労働党はオランダ最大の政党だが、下院150議席のうち45議席を占めるに過ぎない。したがって、自由民主国民党や民主党と組んで、連立政権をつくっている。野党ではキリスト民主同盟が29議席、グリーン・レフトが11議席、あとはマイナーな政党が8つほどある。
もともとオランダの政党は、右派の自由主義政党、中道のプロテスタント政党、同じく中道のカトリック政党、左派の社会民主主義政党と4つのブロックに分かれていた。そして政党を頂点に、これらの支持者はそれぞれ別の社会グループを形成した。
各社会グループごとに、学校、病院、保険、労働組合、雇用者団体、農民団体、新聞、小売店など、人々の生活は各々のグループの中で編成されてきた。こそしてのように宗派別、イデオロギー別に分離した社会は「柱状社会」と呼ばれている。オランダはこの4つの柱が協調することで、多党分立ながら、政治的な安定を保ってきた。
こうした社会構造が根底にあるかぎり、政党も多極化せざるをえない。アメリカやイギリスのような二大政党制とはひと味違った民主主義のかたちがオランダをモデルとして考えられる。実際、オランダの政治学者レイプハルトは、こうした複数の極をもち、柱状社会の「柱」の協調によって産み出される民主制度を「多極共存型デモクラシー」と名付けている。
オランダには、政府に政策を直接提言できる審議会や諮問機関のネットワークが張り巡らされている。審議会は背不の規則により設立され、政府は諮問内容についての対応を回答する法的義務を持ち、諮問委員会は、各省が独自に設定するもので、NGOなどを指名する場合が多いという。
オランダはNGOの活動が活発で、諮問委員会での政策提言の他、社会福祉サービスの提供や、ODA (政府開発援助) の代行機関としての役割もある。NGOは政府に補助金も含め全面的に支援を受けているが、ODAの代行に関しては選定されたNGOの各プロジェクトは政府の事前承認なしに、事後の年次報告でよしとされるなど、その自由は保障されている。
オランダはNGOをはじめとする様々な機関のネットワークが政府の手足となり、また時には頭脳となって活動している。国民のほとんどはこうしたネットワークに参加し、その活動を通して日常的に政治や社会に影響を与えることができる。
政党がこうした確固とした支持基盤をもち、社会の中に根を張っていることが、オランダの柱状政治の特色だと言える。政策がなく、政略ばかりという日本の政治家と違っていて、オランダの政治家は政策を重んじるので、日本のように選挙の最大勢力が「支持政党なし」で、そのときどきの流れで気分的に投票するということはない。こうしたこともオランダの政治をわかりやすく質の高いものにしている。
オランダが多極型社会なら、アメリカやイギリスなどのアングロ・サクソンは階級対立の2極型社会、そして日本はいまのところ一極集中型社会と呼べるかもしれない。ある意味で多元的価値を尊ぶ多極型共生社会のオランダとは対照的な日本である。しかしこれからは日本も価値の多様化が進行し、政治も多極化していくものと思われる。そうした時代の変化を見逃さずに、日本の風土にあった自前の民主主義を、私たちも将来に向けて構築して行くべき時なのかも知れない。
ところでオランダには汚職政治家がいないが、公務員の汚職もないという。警察官の不祥事などもなく、もの腰のやわらかさは特筆にあたいするほどらしい。「物語オランダ人」の中で、倉部誠さんはこう書いている。
「おなじ警察官でも、これが隣国のベルギーへ行くとたちどころに、警察の構造的腐敗は当たり前、同じ政党に属する同僚の腐敗を調査していた元副首相が暗殺され、その政党が組織的に証拠隠滅まではかるのですから本当に不思議です」
オランダに住んでいるから不思議に見えるのだろう。日本に住んでいると、政治家や公務員の不祥事は当たり前で、汚職がないオランダの方が不思議に思われる。麻薬やセックスに寛容なオランダで、政治家や公務員の汚職や不祥事がないというのも信じがたいことだ。しかし、これも包み隠すことを嫌い、すべてガラス張りにするという、開放的な国民性からくるのかも知れない。
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