橋本裕の日記
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2001年08月28日(火) 援助大国オランダ

 他国で災害などが発生すると、オランダでは公、民を問わず、間髪を入れずに援助活動が始まる。阪神・淡路大震災の時も、オランダからただちに援助隊が到着した。バルカン紛争でも、アフリカの飢饉でも、真っ先に駆けつけるのがオランダの救助隊だ。

 オランダ暮らしが11年になるという倉部誠さんが「物語オランダ人」(文春新書)のなかで、こんなエピソードを紹介している。メキシコで大地震が起きたとき、オランダの若者4人が休暇を取り、被災地にかけつけてボランティアの救助活動に従事した。その帰り、たまたま立ち話でそのことを聞いたオランダ空港の窓口の職員はすぐに上司に提案して、彼らのエコノミー航空券をただちにファーストクラスに変えたという。

 ボランティアの場合、飛行機代や現地での生活費はすべて自分たちの負担になる。オランダ人といえば割り勘をダッチ式というなど、ケチで有名である。倹約家の代名詞のように言われ、車など滅多に買わず、30万キロを超えるまで乗りつぶすと言われるが、こと国際協力には出費をおしまない。彼らはお金の賢明な使い方を知っている。 オランダのGDP(国内総生産)にしめるODA(政府開発援助)の割合は0.8パーセントで、これはデンマーク、ノルウエーについで世界三位である。ちなみに日本は0.22パーセント。GDPが大きいので、額としては世界一だが、その中身が問題だろう。ODAの額だけで言えば日本は援助大国だが、その具体的な中身や民間の個人献金、ボランティア活動などを含めた総合的な評価では、オランダに遠く及ばない。

 たとえば、アフリカのエイズ問題をとりあげよう。最近の調査によるとアフリカ人のエイズ感染率は少なくとも25%、この感染者のほとんどが、今後6年から10年間の間に発病し死亡すると推定されている。父親がエイズで死亡し、看病していた母親もエイズで死亡し、あとにはエイズ孤児たちが残される。その子供を引き取った兄弟もエイズで衰弱し、年老いた祖父母が極貧のなかで子供たちを育てているというケースがよくみられるという。

 こうしたなかで、学校をドロップアウトする未就学児が増えており、その中の多くはストリートチルドレンとなっている。学校にも属さず保護者もいないため、公衆マナー・生活の知恵・基礎的な職業訓練など社会的なスキルを身に付けない若者たちが増大するに連れて、伝統的ソサィエティが急速に崩壊しつつあり、このことがさらにエイズの蔓延を助長している。

 こうしたアフリカの悲惨な現実を前にして、ヨーロッパ各国は、農村部や子供に対して女性の人権やエイズの啓蒙活動、孤児への授業料支給などに力を入れている。アメリカは、TV・ラジオ、街頭ポスター等のマスコミを使った啓蒙活動とコンドームの低価格販売。そして、日本はエイズ検査薬という大量生産工業製品の提供というわけで、それぞれの国の援助の特徴がよく出ている。

 オランダは、日本のJICA(国際協力事業団)のような政府系の開発援助の実施機関を持たない。そしてODAはNGO(非政府組織)に給付され、本国のNGOの自主的な判断によって現地で活動しているNGOに流れる。政府から相手国の政府にながれ、しかもそのほとんどがひも付きだという日本のやり方とはまるで違っている。だから現地に密着した実効のある援助が出来る。

 オランダに特徴的に見られるような、こうしたNGOをとおしたきめ細かな人的援助が可能になるためには、これに参加する多数の国民の協力が必要である。そのために、学校では「社会参加型の教育」が熱心に行われ、国民の意識のレベルを高めてNGOへの参加や協力が得られやすい社会環境を維持しようと務めている。またこのために各NGOは質の高い教材を作り、積極的に学校に提供している。

 オランダでは毎年国民の1/3にあたる500万人以上の人々が国際協力関係のプログラムに直接的に関わっているという。また寄付の提供、募金キャンペーンへの参加、開発NGOの会員になるなど、間接的な関与もふくめると、その数は国民の半数に登るという。これによって日本のように政府主導のODAに偏った援助ではない、地元に密着したきめの細かい国際協力が成り立つことになる。

「普段は財布の紐を締めて絶対に緩めない彼らですが、外国で飢饉や災害が発生すると、テレビで義捐金送金用の銀行番号が報じられ、たくさんの寄付金がそれこそアッという間に集まるのです。世界でも有数の金持ち大国と自他ともに認められる日本では、外国の災害にオランダで通常見られるような対応の迅速さ、気前の良さ、そして民間レベルでの広範な協力体制は絶対に期待できません」

 倉橋さんの「物語オランダ人」からの引用してみたが、まったくその通りで、最近の歴史教科書の騒動ひとつ取りあげても、何という低次元の志の低い教育だろうと恥ずかしくなる。「他の人々のために、国境を越えてなにができるのか」という国際貢献の理念のひとかけらもない日本の教育の現状がいかに国際常識からかけ離れたものであるか、反省してみる必要がある。

 オランダからの国際平和維持軍への派遣者数は、トップから九番目にランクされている。総人口1600万の小国であることを考えれば、この数字からもオランダが如何に国際貢献に熱心な国であるかがわかる。名実ともにオランダは国際貢献でトップクラスの実績を残しており、これが国民の生き甲斐であり、国のアイデンティティでさえあるのだろう。




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