橋本裕の日記
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2001年08月01日(水) 森と海の共生

 高校生の頃、父と山仕事をしていると、都会の若者たちが私たちの近くをハイキングスタイルで通っていくのを見かけた。同じ年頃の若者がハイカラな服装でわいわい楽しそうに手を繋いで傍らを通り過ぎるのを見ると、日曜日だというのに長靴を履き、手ぬぐいで汗を拭いながらむさくるしい風体で山仕事をしている自分が惨めになった。

 そんな私の心を忖度してか、昼休みのとき父が、「お前の植えた木がきれいな空気と水を作って、町の連中の生活を支えているのだ」と言った。この言葉を、30数年経った今も明瞭に覚えている。

 父の言葉で山仕事は単なる金儲ではなく、もっと大きな社会的意味があるのだと気付いた。そして、屈辱感が去って、むしろ自分たちの仕事を誇りたい気分になったのを覚えている。

 山は単に町に住む人々に空気と水を供給するだけではない。それは海にすむ植物や動物を育てる。黒川記章さんの「共生の思想」(徳間書店)のなかに、「森と海の共生」について、こんなことが書いてある。

「世界の年間の漁獲高のうち50パーセント(5千万トン)は、全海面のわずか0.1パーセントの場所でとれているのだ。その場所とは、落葉樹の森の土壌の栄養が河川をへて海に注がれている地域、湧昇流があり、深層水に含まれている栄養分が海表面から30メートル以内の太陽光の届くところまで上昇してくる地域なのである」

 近年日本近海の漁獲高が激減している。開発によって山が荒れた上に、ダムを造り、河川をコンクリートで固めることで、川や海の環境が大きく変わったせいである。しかし今でも漁民が山に入り木を植える行事が全国各地で残っている。昔の人は山の緑が海の幸をもたらすことを、長い経験で知っていたのだろう。

 山と川と海が共生し、自然と人間が共生していた豊かな時代を、私たちはもう一度作り出さなければならない。高度に発達した科学技術を、これからは自然を破壊するためではなく、自然と人間を共生させ、蘇生させるために使いたいものである。 




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