J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2004年11月28日(日)    母が死んで、、、

J (3.秘密の恋愛)

9. これからのこと (4)


しかしレイの表情はいくぶん硬く見えた。
幾度も考えていたことを復唱するように、諳んじて確かめるような素振りをしてから、
やっとレイは言葉を発しました。

「母が死んで、、、」

だが、そのひと言でレイは口篭もりました。
母の死の悲しみをまた思い出したからなのでしょう。
レイは視線を落として口元をきゅっと締めました。
歯を食いしばるように。

私は「ん、、。」と深く頷いて言葉がない。

レイの心中は痛いほど分かる。
私も自分の父を失った直後はそうだった。
思い出に変わるまでの父の記憶は痛いものだった。

しかしこのまま私が黙っていては、さらにレイの悲しみが増すばかりだ。
いくらかでも気持ちを和らげる言葉をかけなくては、。
私の私たる存在価値がないではないか。


「なぁ、あんなに若くして、、。ご家族の皆さんも、さぞ残念だろうにね。
 でも、みなさん、しっかりなさってたね。お葬式の時さ。
 君もね、しっかりしてたよ、大変だったろうね、おつかれさま。」

と私は笑顔を作って語りかける。
レイは「いえ、私は、、」と言って少し照れ笑い。

「りっぱなお葬式で、若輩の僕が会社の代表なんかで役不足だったかもな。
 まして、僕は直会までおよばれしちゃって。アハハ。失礼したよね。」
と私は続けて勝手に笑顔で話をする。

レイは顔を私に向けて手を振りながら、
「そんなことないです、工藤さんにはいろいろと世話になったって、
 父も言ってたんですよ。」と応える。

「いやいや、あの時は君のお姉さん夫婦にもずいぶん気を使って貰ったし、。
 あのお姉さんのご主人、えっと、、、なんてたっけ?」(参照こちら
「島田さん?」
「そうそう、島田さん、いい男だね、親切で。」
「ええ、とっても、優しい人なんですよ。」

話が横道にそれて、レイの気も和らいで。
レイの顔に笑顔が戻る。

ほ、よかった。



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