J (3.秘密の恋愛)
8. 誤解 (10)
「工藤さん、この度はいろいろお世話になりまして。。」
レイの父は頭を深々と下げ私に礼を言いました。
私は恐縮して、「いえ、そんなこと、」と言いながら、 レイの父と同じくらいの高さまで頭を下げ、 「このたびはご愁傷様のことで・・」 と通り一遍の挨拶をしながら、 何を言えばいいのか考えるのだが、思い浮かばない。
レイは神妙な顔で私の隣に座ってる。
一呼吸おいて、レイの父。 「工藤さんのおかげでレイも母親の死に目に会うことができました。 その節は急のことでしたので礼も言えず、失礼を致しました。」(参照こちら) 「あ、いや、その、でも、間に合ってよかったです、、、。」
間に合って“よかった”、はないだろう、 と言ってしまってからしまったと思った私、 だが言ってしまったものは仕方ない。 「なんとも、残念の極み、でしたが、、。」と私は付け加える。
レイの父は無言で左右に首を振る。 (人の死は寿命であって致し方ないことですから、、)とばかりに。
「ほんと、工藤さん、ありがとうございました。」とレイも口を挿み礼を言う。 「いや、僕ができることをしたまでだよ、それぐらいしかできないしね、。」 と私はその夜のことを思い出しつつ答える。
その夜、レイを抱きしめてやれなかった私。(参照こちら)
一呼吸おいて、レイの父、。 「それにまた葬式にまで来ていただいて、お忙しいところでしょうに、 遠いところほんとうにありがとうございました。」 「いえ、今日は会社を代表してのことです、言わば公務です、」と私。 「でも、あの夜は工藤さんのご好意なのですよね、」とレイの父。 「ええ、まあ、そういうことですが、」と私。
レイの父はしげしげと私の顔を見て、そしてレイに言う。 「ほんとうに、レイはよい方の下で働いているな、な、レイ。」 レイはにっこりとして頷く。
「ところで、工藤さん、娘のレイの仕事っぷりはどんなものです。 この子といったら、最近、ほとんど実家に寄り付かなくって。 たいそう忙しいようなことは聞いているのですが。」
さて、どう答えよう。
私はレイの顔をちらと見る。
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