6. 個人的な話 (18)
時が止まってしまったような短くて長い時間。 抱き締めることもできず、引き離すこともできず。 力ないその手は、空を抱くようにじっとしていました。
その時、背後の病室のドアが開く音。 咄嗟にレイも私も身体を離す。
!
(見られてはならない抱擁とレイも心得ているのだ。)
出てきたのはレイの弟。 「お姉ちゃん、」 「うん、今行くわ、」
レイの弟はレイを呼びに来たようでした。 あまりに時間がかかるのでどうしたのかという顔付きで。 たぶんレイは私に送ってもらった礼を言うために病室を出てきたのだろう。
私はその辺を察して聞こえるような声で言いました。 「じゃ、僕は、これで。」 レイはやっとの声で言う。 「ありがとう、、ございました。」
レイの弟も近づいてきて私に頭を下げました。
私は、うんうん、と頷き、またレイに向き話す。 「仕事の方は万事僕がやっておくから、気にしないように。 葬式の日程だけ、決まったら連絡くれればいいからね。」
レイは小声で「はい、ご迷惑掛けます、」と言いました。
私は胸をぽんぽんと軽く叩いて、 小さく手を上げ後ろを向き歩き始める。
通路の曲がり角に差しかかった時、 私はちらっと後ろを振り返ってみた。
が。
そこにはもう誰もいませんでした。
(6. 個人的な話、の項 終わり)
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